えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

道徳主義者は道徳共同体を破壊する Archer (2017)

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/rati.12168

  • Alfred Archer (2017) The Problem with Moralism. Ratio, 31(3), pp. 342–350.

 道徳主義(Moralism)には大きく2つの特徴が指摘されてきた。1点目は他人に対して不寛容・非共感的な道徳判断を下すこと、もう1点は必要ないところで道徳判断を行うことだ。いずれの場合にも、道徳主義者は道徳的批判が適切である範囲を過剰に拡大している

 こうした不適当な道徳的批判は様々な場合に生じうる。(i)超義務的な行為を要求する場合、(ii)道徳と無関係な行為を道徳的に要求する場合〔過剰な道徳化〕、(iii)悪い行為をしたが弁解(excuse)の余地がある人を批判する場合、さらに、(iv)悪い行為をしており弁解の余地もない人に対する批判だがその厳しさが行為の悪さと釣り合っていない場合、などである。

 こうした不適切な道徳的批判は何が問題なのだろうか。そもそも、適切な道徳的批判は、他人の行為から自分たちを防衛する機能を持つ点に価値がある。しかし道徳主義は、以下のような形でその働きを低減させてしまう。道徳主義者は過剰な道徳的要求を行うが、道徳的要求の強さと要求の動機付けの力はトレードオフの関係にある。道徳的要求が厳しすぎると、誰もそれに従っていない状態が発生し、別に従わなくてもよいという意識を生む。このように、道徳的批判が常態化することで、適切な批判を含む批判全般に対する感受性が鈍り、さらには批判全般に対する反感も増強されてしまう。道徳主義者は、その批判相手に危害を及ぼすだけでなく、間接的に道徳共同体全体に危害を及ぼすのだ。