- German, A., and Tretter, M. (2025). Brain Preservation and Cryonics Through the Lens of Moral Psychology. Neuroethics 18, 12. https://doi.org/10.1007/s12152-025-09584-7
クライオニクス技術は、当人に直接的な危害はもたらさないものの、嫌悪感を喚起する要素が数多く含まれている。これは自然なことではあるものの、この技術をめぐる公的議論を阻害してしまう恐れがある。
そこで、これらの嫌悪要因を排除し、この技術にかんする反省的判断を促進させるために、次のような思考実験を提案する。

【シュレディンガーの時間猫】
一匹の猫が、脱出不可能な部屋にどういうわけか閉じ込められている。この部屋の中にはタイムマシン装置以外の何もない。この装置は爆発するもので、外側にいると爆発に巻き込まれるが、内側に入れば実験的な事象が生じる。猫は、装置の外にとどまって痛みなく物理的に破壊されるか(「不作為」)、タイムマシンの中に入って不確実な結果が生じるか(「行為」)、どちらかである。不確実な結果のなかには、同様に痛みのない物理的破壊、絶対に戻ってこれない未来の不明の時点へのタイムトラベル、さらにまったく予見できない結果までが含まれている。猫はこのタイムマシンに入るべきか?
このシナリオはオプトイン型のクライオニクスに対応する。クライオニクス技術の規制状況に応じて、次のようなバリエーションも考えられる。

- (A) オプトアウト型
- (B) 強制型
- (C) 非合法型
- (D) 高額型
このシナリオにはいくつかの弱点もある(成功率を過大評価する可能性、クライオニクスのコストを無視、別の嫌悪要素の残存、など)。また、道徳的議論の中でこうした思考実験からくる直観にどれだけ依拠できるかについても議論がある。
実際、直観は道徳的目的を示すのには役立ちにくい。だが、目的が定まったうえで、それを実現する方法に関しては十分な実践的含意がある。
今回の思考実験は、クライオニクスが価値ある目的だと定めたうえで、それを実現する方法についての議論や、クライオニクスを広く採用するための説得に役立つ。また、嫌悪感を生じさせることなしにこの技術に関する道徳判断を調査したい場合にも用いることができる。