えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

対応推論研究の古典と現在 唐沢 (2017)

なぜ心を読みすぎるのか: みきわめと対人関係の心理学

なぜ心を読みすぎるのか: みきわめと対人関係の心理学

第3章 行動の原因としての心
  • 私たちが心に関心を持つのは、それが行動の原因だからだ
    • この章では、「行動の原因としての心」を見いだす推論の特徴を、「対応推論」の研究を中心にみていく
  • 対応推論 = ある行動からそれに対応する内的特性を推論すること

【ハイダーの「しろうとの因数分解」(Heider 1958)】

  • 人々は行動の原因を、能力・意図・環境要因に分析することによって内的特性を推論している
    • 人は「環境要因」を「人の要因」から分離している、という視点

【ジョーンズとデイビズの対応推論理論(Jones & Davis 1965)】

  • 内的特性が推論される論理をより詳細に記述
    • ある行動がなされたとき、その行動でしか得られない何かがあるなら、それを求める意図が原因だと推論される(「非共通効果」)
    • 状況や社会的望ましさ、役割に合致した行動は、本人の内的特性の反映だとは見なされない。
  • 対応バイアス:環境要因は、人の要因より過小評価される

【ジョーンズとハリスの態度推論実験(Jones & Harris 1967)】

  • 被験者は、カストロ政権にかんする賛成/反対のエッセイを読む。この際、エッセイの書き手である学生は、賛成/反対どちらのエッセイを書くかを教師によってあらかじめ指定されていたという情報が与えられる

→にもかかわらず、賛成(反対)のエッセイの書き手は実際にカストロ政権に賛成(反対)していると判断されやすい。

【ロスらの知識推論実験(Ross, Amabile, & Steinmetz, 1977 )】

  • 2人1組がクイズの出題者と回答者になり、出題者は自分の知識から回答者にクイズを出す。ここで出題者は全ての問題の回答を知っているのに対し、回答者はたびたび間違えるが、これは実験設定上当然である。

→ だが、第三者も回答者自身も、回答者より出題者の方が知的だと判断してしまう

【ギルバートの三段階モデル】

  • 対応推論は三つの過程から構成されている
    • 「行動のカテゴリー化」 → 「内的特性の特徴づけ」(=対応する特性の付与)→ 「環境要因を考慮した修正」
  • このうち、「環境要因を考慮した修正」は統制的処理過程である。
      • 認知的負荷をかけた状況では、環境要因による特性推論の抑制が効きにくい(Gilbert, Pelham, & Krull 1988)
    • 資源不足の他に対応バイアスを生む要因として次がある
      • 環境要因の気づかれにくさ
      • 環境要因の強さの過小評価
      • 状況に同化した行動のカテゴリー化
        • 例:上司が権威的だと強く認知するほど、部下の行動が「無理している」とカテゴリー化されやすい。その結果、この行動に対応する特性「服従的」が部下に帰属されやすくなる
  • 対応バイアスの合理性
    • 対応バイアスには文化差があり、東アジア文化圏では欧米より弱い
      • アジア人の方が行動をとりまく背景情報に注目する傾向がある(Matsuda & Nisbett 2001)
      • これは、アジアの自然環境が欧米に比べてより流動的だからではないかとニスベットは示唆する(Nisbett 2003)
    • 外的環境に対してより適応的に行動しようとした副作用として「バイアス」が生じているという視点
  • 古典的な研究では、人は行動の原因を環境要因か人の要因のどちらか一方に求めると前提されている。が、この前提には批判もある。

【環境要因の提示が動機の推論を促進する(Fein, 1996)】

  • Jones & Harris (1967) の変種。エッセイを書く学生は自分の立場を自由に選べるが、しかし教師は政権に賛成で、このエッセイへの評価は成績に大きく影響する、という情報が被験者に与えられる。

→ 結果、賛成のレポートを書いた学生に対して賛成の態度を帰属させる対応推論が、抑制された。

      • 環境要因を考慮することで、教師に取り入りたいという別の意図の帰属が促進されている。

【日常的概念による行動の説明(Malle, 2004)】

  • 人が自発的に行なう「日常概念による説明の理論」では、環境要因と人の要因は互いに排他的な行動の原因ではない。
    • 「状況→心的状態→行動」の一連の過程として行動は説明される。
      • 説明の機能は「出来事を理解可能にする」ことと「相互作用を上手く行なうこと」(例:言い訳)であり、このために複雑な説明が必要となる。

【多重推論モデル(Reeder, Monroe, Pryor, 2008)】

  • 行為の観察者は状況を手がかりとして、行為者の目的、動機、特性などに関する複数の推論を行なう。
    • 同じ攻撃行動でも、状況に応じて異なる動機が推論される。また、それに応じて行動に対する評価も変わる。

→ ここでは状況要因が、人の要因の割引ではなく、それを推論するための手がかりとして使われている。

  • 近年の研究によれば、人間は「状況要因」と「人の要因」の一方だけに行動の原因を帰属するのではない。むしろ原因帰属の中では、状況を勘案しつつ態度や動機や態度の推論が行なわれている。
    • では、そうした心の推論にはどのような特徴があるだろうか?