えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

自由意志概念の発達 Gopnik & Kushnir (2014)

Surrounding Free Will: Philosophy, Psychology, Neuroscience

Surrounding Free Will: Philosophy, Psychology, Neuroscience

    • 我々の自由な選択が行為を引き起こすという直観は広範で強いが、これは科学的事実と不整合に見える。しかしそうならば、私たちはどうやってこの直観を獲得したのか? 発達研究はこの問いに取り組む最良の道だ。
    • 本研究は、他行為可能性概念を中心に子供への質問を行う。その際に、選択と制限に関する2つの考え方を区別した。
      • (1)自由な行為は、外的制限から独立である
  • 物理的なもの/認識的なもの(無知)
    • この意味での制限がある場合、責任判断は減免される
      • (2)自由な行為は、さらに内的(心理的)制限からも独立である
  • 例えば、特定の強い欲求に影響されずに選択すること
  • 「絶対的自律性」
    • この意味での制限があっても、責任判断は減免されない(飲んで帰りたい欲求があるからといって飲酒運転が許される訳ではない)
      • 依存や精神疾患の場合は減免しているが、外的制約に比べれば曖昧さがある
    • 少なくとも大人は持っているこの2つの自由意志理解を子供はどのように、いつ、なぜ獲得するのだろうか?
      • 関連して、自由意志理解は内観と他人の観察どちらから来るのか
      • また、因果性理解と自由意志理解にはどのような関係があるか

1 自由意志理解の発達

    • 自由意志理解の幾つかの要素にかんする先行研究
      • 幼児期初期;目標志向的行為の理解、制限下で別の手段をとる可能性の理解、「やりたくない」と「できない」の区別。そしてこれらの推論を非生物には行わない(Gergely & Csibra, 2003; Behne, Carpenter, Call & Tomasello, 2005. etc.)
      • 2歳:行為が主観的で個人的な選好を反映していることの理解、選好に基づく行為の予測(Fawcett & Markon, 2010. etc.)
      • 就学前期:様々な種類の外的制限の理解(Schult & Wellman, 1997)
      • 後期就学前期:物理的・心理的制限の侵犯は魔法で、社会的規範の侵犯は欲求で説明(Browne & Wollery 2004)。他行為を案出する課題に対し、適切なドメインで実行可能な尤もらしい候補を提案(Sobel 2004)
      • 4歳・6歳:フタの上にあるボールと手が、フタが開いた時落ちざるをえないかどうかについて、適切に回答(Nichols, 2006)。
  • この実験は、手が「他行為可能な能力をもつ行為者」、ボールが「能力が制限された行為者」のモデルとなることを意図している。しかし、子供は単に生物と非生物の違いに基づいて回答を行ったにすぎないのかもしれない。
    • 本研究では、「自由な行為者」と「制限下にある行為者」の区別に着目する。
      • 一般的枠組み:ある行為が示され、そうせざるをえなかったか、別のこともできたかが問われる。回答に対する説明も求められる。
      • 変数:制限の種類・時制・自他の区別・積極的/消極的行為の別・年齢・文化差。

2. 物理的制限と認識的制限を理解する

    • [2-1] 4−5歳の子供に対し、ある行為者の行為Xを提示する(e.g.,「台から床に降りる」)。その上でその人はXをせざるをえなかったか、それとも別の行為Yもできたかが尋ねられる。Yには物理的に可能な行為(「台にとどまる」)か不可能な行為 (「台からおり空中で静止」)が入る。
      • 結果:物理的に可能な行為の場合、69%の子供がYを選ぶこともできたと答えた。一方で物理的に不可能な行為の場合は16%に留まった。
    • [2-2] 子供自身を行為者とする実験。制限条件では、線を書けと教示するが、実験者が子供の手を堅く握って点を書かせる。自由条件では、点を書けと教示する。その後、線を書くことができたかが尋ねられる。
      • 結果:自由条件で線を書くことができたと答えたのは4歳児の71%、制限条件では19%と、上と同様の結果が得られた。
    • [2-3] 自分もしくは他人の未来の行為Xについて、それを行わざるをえないか、それとも別の行為Y(物理的に可能/不可能)ができるかが問われた。
      • 結果:4歳も6歳も90%以上の質問で正解〔不可能な行為はできない、可能な行為はできる〕した。
    • 正当化:制限がある行為をすることができないことは、重力や物体の剛性によって正当化された。制限の無い行為をすることができることは、実際その可能な行為をやる(ふりをする)ことで正当化された。
    • 以上から、4歳の子供であっても物理的に制限された行為とそうでない行為の区別を正確に理解していることが分かる。

3.認識的制限

    • 4歳の被験者に、実験者と異なる絵を書くように指示する。自由条件では、実験者の絵は子供に見えている。制限条件では、実験者の絵は隠されており、子供が自分の絵を書き終わった後で初めて見せられる。その後、今自分が書いたような絵を書かざるをえなかったか、それとも実験者のような絵を書くこともできたか、が尋ねられる。
      • 〔制限条件では実験者の絵に対する認識的制限があるので、同じ絵を描くことができなかった、と答えることが予想されている〕
      • 結果:自由条件では66%の子供が別様に書くこともできたと答えたが、制限条件では37%であった。上の実験ほど明確ではないが有意。
    • 正当化:自由条件で可能という回答は、実際に描く(ふり)で正当化された。ただし、制限条件で不可能という回答の正当化は分れた。
      • 認識的制限に言及(29.4%)/結果に言及(「線だった」〔ので書けなかった〕)(29.4%)/〔知識〕以外の心的状態に言及(11.7%)/説明なし(33%)
  • 認識的制限の存在を同定できているが、それが正確にはどういう障害なのかを突き止めるのに困難があるようだ。
    • 4歳の子供も、可能な行為・不可能な行為の知識をもちいて、選択と制限に関する推論を行うことができる。

4.自律を理解する

    • 自由意志理解(2)はどうか。大人の素朴心理学では、欲求が対立する場合には選択が必要になる。この選択の能力は、二階の欲求とされることもあるが、いかなる動機からも独立な選択能力(「自律」)であると多くの大人は理解しているように見える。
    • 一方、子供の素朴心理学では、選択は欲求を含意するようにみえる。
      • 選択行動の観察から選好を推論することが様々な実験で示されてい(Woodward 1998, Fawcett & Markson, 2010; Kushnir et al. 2010; etc.)
  • 子供にとっては、欲求も心理的制約であり、欲求があればそれを実現するための行為が必ず行われ、他のようにはできない、と考えているのだろうか?
    • そこで、望ましい行為がYであるときに、望ましくない行為Xをできるかどうか、これを4歳と6歳の子供に尋ねた。この際、さらに以下の2変数が用意された。
      • 他人に関する判断(実験4)か自分に関する判断(実験5)か
      • 望ましくない行為の種類:
  • 2種の行為(望ましくないことをする):まずいクッキーを食べる&怖い部屋を覗く
  • 2種の抑制(望ましいことをしない):おいしいクッキーを食べないでおく&気になる小部屋をのぞかないでおく

      • 結果:「望ましくない行為ができる」という回答の平均値(二種類の行為/抑制について質問がなされるので、最高値は2)。
      • 6歳の判断は大人の判断にちかい。興味深い点として、他人の方が自分よりも欲求に逆らえると考えている。
      • 一方4歳の判断はかなり異なる。欲求に逆らえるという回答は6歳よりもかなり少なく、とくに自分自身について著しい。
    • 正当化:「逆らえない」という回答の正当化としては、欲求に訴えるものが半分程度、また欲求を誘発する外的事実に訴えるものが1/4程度であった。一方、「逆らえる」という回答の正当化では、二階の欲求に訴えたものは0で、多くの子供は尤もらしい反実仮想を用意した(「小部屋からは怖いものはなにも飛び出てこないので」〔覗くこともできた〕)。両年齢とも14%ほどの子供が自律に訴えた。
    • 6歳の子供は、自律に関する直観をまだ完全に発達させることなく、欲求を越える選択の観念を発達させているのかもしれない。とはいえ、ふつうの人のあいだで自律的な自由意志に関する直観がどのくらいの広さで共有されているのかは、もちろんオープンである。

5.文化差

    • 個人主義的な文化は、集団主義的な文化よりも仮定するとされている。そこで文化の影響を見るため、以上の実験と同じ実験が北京でも行われた。


      • 中国における回答の全体的パターンはアメリカとそう大きく変わらない。
      • しかし、アメリカと比べると、中国の子供は自律性を支持する、つまり欲求に逆らえるという回答が全体的に少ないことがわかる。

6 意志の理論の発達

    • 4歳でも物理的・認識的制限にかんする見解は正確であった(実験2・3)。すると、実験4・5における4歳の回答パターンは様相や可能性理解の困難さに由来するものではない。むしろ4から6歳にかけてより大きな概念的変化があるのだと思われる。
    • 自律的自由意志の直観が内観の産物もしくは生得的なものなら、発達を通じて現れているはず。一方、哲学から学んだ反省的思考の産物なら、就学期に現れるはず。
    • 就学前期の信念が貫文化的に類似していることを考えると、自由意志に関する直観はこの時期に構築中である素朴心理学の一部として発達するのではないか。
      • 4歳までに、欲求を行為の直接的原因とする因果理論が出来上がる。そしてそれは6歳までに、自律的自由意志という更なる因果的要因をもつ理論に置き換わる。
  • この変化は、自分自身の抑制経験の増加や、他人の広範な行為の因果的説明の必要性のために生じるのかもしれない(see also. Holton, 2009)。
      • 自律的自由意志はこの時期に発達する明示的信念に似ている。明示的信念は知覚と行為の間に入る新たな因果的説明項であり、自由意志は欲求と行為の間に入る。

7.自由意志、実行制御、後のお楽しみ

    • またこの時期には、実際に自分の欲求や行為を制御・抑制するための実行制御や楽しみを後にとっておく(Deferred gratification)ための能力が発達する。さらなる研究が必要だが、これらが自律的自由意志理解の発達とどう関係すると考えられるか。
      • 一つの可能性として、制御の経験の増加によって、自由意志概念に内観的にアクセスする新しい道が与えられるのかもしれない。この時、行為と抑制にかんする判断の違いは、抑制の方が難しいことの反映なのかもしれない。
      • 逆に、動機や欲求にかんする理論が発達することにより、自分自身の行動の制御をより効果的に行うことができるようになるのかもしれない。
  • 自分より他人に自律的的自由意志を認める傾向は、最初に理論的な推論がありそれを後から自分に当てはめていることを示唆しているのかもしれない。

8.発達上の知見と自由意志の形而上学的問題

    • 多くの哲学者、心理学者が、選択という意味での自由意志は認める。問題は、通常の因果プロセスを無効化するような意味での自由意志にある。
    • 本研究によれば、第一の意味は発達の初期に現れている。第二の意味は6歳までに現れる新しい心理解に結びついているのかもしれない。
      • どうして〔第二の意味の〕自由意志は特別な自律性・(因果からの)外在性を特徴とするのだろうか。
      • 多くの哲学的な因果理解の理論によれば、Xへの介入がYを変化させると我々が考える時、我々は「XはYを引き起こす」と信じていることになる(Woodward 2005)。子供にかんしても事情は同じだと言う研究がある(Bozawitz et al. 2012)。特に子供は「介入」を目的指向的行為と同一視しているようだ。おそらく初期の因果理解は目的志向的行為から生じる出来事という範囲に限られている。
      • 子供はおそらく、介入は介入先のものによって影響を受けないと懸命にも考えている。より理解が高度になると欲求や信念が目的指向的行為を引き起こすと理解する(他人の行動を変えたければ、信念や欲求を変化させれば良い)。この時「自由意志」は単に、これらの心的プロセスが制限されず働いていることなのだろう。
      • しかし、行為をせずとも〔内的な〕決定や制御によって自分の心的状態に介入できることがわかると、いったい何が介入者なのかが疑わしくなる。この疑念に、第二の意味の「外部にあり自律的な自由意志」は答えを与えるのかもしれない。
      • とはいえ、自律性による説明を行う6歳児は少数派であった。単なる因果的説明項としての自由意志理解から形而上学的にヤバい自由意志理解に、より正確にはいつ移行するのか、そもそも多くの人がその移行をしめすのか、これはまだわからない。
    • ともかく、この研究は自由意志直観の発達を体系的に調べた最初の研究である。「他行為可能性」を直接たずねる方法はNichols (2004)やBaumeister (2008) に負っているが、更なる状況での探求が求められる。