えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

素朴概念としての自由意志を研究しよう Nichols (2004)

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.0268-1064.2004.00269.x/abstract

  • Nichols, S. (2004) The Folk Psychology of Free Will: Fits and Starts. Mind & Language, 19, 473–502.

・自由意志概念は素朴心理学の一部なのに自然主義的文献では無視されてる! 両者の接点を探るため、
 ・行為の産出の因果的要因は行為者である
 ・任意の行為に関して、行為者は別の行為も出来た
 によって特徴付けられる「行為者因果」の概念に着目。

【問い】
(1)子供は行為者因果を信じているか?
(2)その信念はどのように獲得されるか?

(1−1)行為者が原因である(因果原理「行為者は行為産出の因果的要因である」)

・12ヶ月の子供は行為者を量化している:特定の対象を行為者として表象する(その表象をトリガーするのは、目や自分と随伴的な相互作用)(Johnson, Slaughter and Carey, 1998:視線追従による)
・18ヶ月の子供は、機械には目的を帰属させないが人間にはする(Meltzoff, 1995)
→相関原理「行為があるなら、行為者がいる」の信念(「行為者がないなら、行為がない」)
・相関原理の信念は、それに先立つ因果原理の信念から派生しているのかもしれない。またそうでなくても、因果的帰納に関する多くの理論は、「他の条件が同じ場合、原因の候補がある場合にのみ結果が起こるなら、その候補は実際に結果に因果的に力を及ぼしている」を仮定としている。これが正しい場合、子供は相関原理から因果原理を導出する事が出来る。
・従って、おそらく子供は因果原理を信じている

(1−2)他行為可能性

実験1

・類似の動きをする行為者/物体を4歳程度の子供にみせ、それが別のことも出来たかを問う
・また、行為者自身が気づいていない外的障害で行為の進み方が決定されている上で、一方では行為者が行為を行おうとし、他方はしないという2シナリオを用意。子供には、その不可避の行為を本人が選んだのかを問う
・例:机にコインが張り付いている。一方の人物はコインをとろうとし、もう一方はとろうとはしなかった。この人物は机の上にコインを置いておく事を選んだのだろうか?

  • 結果

・それぞれの課題は2バージョン用意してある。いづれの課題も「Yes」を1として回答の頻度を集計

総合スコア
べつのこともできた
行為者条件
物体条件
外的障害
試みてない
試みた

→子供は、行為者は他のようにも出来たと考えているようだ
・懸念1:子供の選択概念は単に外的強制からの自由なのでは?
→強制されてても行為者が選択したと考える傾向がみられるので話はこう単純ではない
・懸念2:「条件が違えば別の事をしただろう」ということを意味しているのでは?
→背景条件は一定だと明示的に言っておく(実験2)

実験2

・行為・道徳的行為・物的出来事の3領域についてそれぞれ3シナリオを用意。それ以前の出来事が全て決定されているとした上で、その出来事が起きざるをえなかったか尋ねる。

  • マテリアル例

シナリオ:マリーは食べ物屋に居て、アメがほしいと思っています。そして、アメを盗むことに決めました。
理解テスト:マリーが盗むことに決める前に、何が起こりましたか?
i. マリーは盗むことに決める前にお店に居ましたか?
ii. マリーはアメを盗む前にお店から出て行きましたか?
iii. マリーはアメをほしがっていましたか?
問い:では、以上の話と全く同じ、マリーが欲しがっていたものも全く同じ状況を想像してください。もし、マリーが盗むことに決める直前まで、世界のあらゆることが全く同じだとすると、マリーは盗む事に決めるしかなかったのでしょうか?

  • 結果

Yesを1として3条件を総計(つまり最大値は3)

スコア(SD)
自然な選択 1.00 (0.50)
道徳的選択 0.67 (1.38)
物的出来事 1.56 (0.88)

(自然な選択と物的出来事の間に有意差が無いがこれは母数の少なさによるものだろう)
→子供は行為者に対し、条件分析に尽きない意味で他の事も出来る能力を帰属させていそう

(2)行為者因果信念はどのように獲得されるか?

  • (A)三人称的学習(Gopnik and Meltzoff, 1997; Harris, 2002)

・因果原理の学習は簡単だが他行為可能性の方は難しい。
・規則「予測可能性を定期的かついつも破る現象は非決定的である」に従って学習しているのでは? 
→行為者だけでなく天気とかも予測不可能なのでうまくいかない

  • (B)一人称的学習(Reid, 1788; Campbell, 1957; O’Connor, 1995)

・内観は決定論的な意志決定プロセスにアクセスできない → 別のように出来たように感じる(Nichols and Stich, 2002)
・しかし一般に、ある現象の決定論的メカニズムにアクセスできないからといって、それが決定論的プロセスによって生み出されていないという信念につながる訳ではない。
・「自分は意思決定の基礎にある全て要因にアクセスしている」という信念を足すという道がありそうだが、この信念を子供が持つという証拠は今のところ無い

  • (C)生得説

・ありそう

  • (D)義務の信念から行為者因果の信念へ

・決定論が正しいなら我々は決定されている行為以外は出来ないが、不可能な事を義務づけられる事は出来ない。そして我々が道徳法則に従うべきなので、自由意志は存在する。(カント)。
・このように、子供は先立つ義務の信念によって行為者因果の信念を獲得するのかもしれない。

含意

・両立論的な直観はマインドリーディンシステムから、行為者因果的直観は義務のシステムからくるのではないか?