えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

素朴デカルト的二元論が非決定的なものとしての自由意志概念を生むのではないのか Bloom (2006)

http://www.yale.edu/minddevlab/papers/my-brain-made-me-do-it.pdf

  • Bloom, P. (2006) My brain made me do it. Journal of Cognition and Culture, 6:209-214.

  本特集のニコルス論文はマインドリーディングの発達研究の対象に自由意志概念が含まれていないことを指摘し,これは子どもがこの概念を持たないという点にコンセンサスがあるからではないかと示唆しました(Nichols, 2006).しかし発達心理学者であるBloomは,これはむしろ見逃しの産物ではないかと考えます.
  そうするとNichols (2004) はこの問題に取り組んだ唯一の研究で,子どもは自由意志が決定論的プロセスだと考えていることを示しているのですが,ニコルスは大人が決定論的な自由意志概念を示す研究も同時に提示し,「常識的な自由意志理解」はより複雑だと結論づけていますただしこれらの研究には以下の2つの問題があります

  • (1)被験者大学生しかいない,サンプル数少なすぎ問題
  • (2)子どもにはシナリオ難しすぎ問題

  さて,ニコルスの方法は暗黙的な自由意志概念を調査するものですが,これまでのBloomの研究は,小さな子供ですら常識デカルト的二元論を採用していることを示しています(Bloom, 2004).すなわち,思考が生じる場所が脳であると教えられた子どもたちは,脳を認知的な補綴物,「魂の小さなパソコン」(ピンカー)とかんがえる傾向にあります.子どもたちは,「脳によって引き起こされたこと」と「人格によって引き起こされたこと」を明確に区別し,問題解決などある種の行為には脳が必要だが,愛するなどの別の種の行為には必要ないと考えるのです.
  ニコルスが明らかにしたような非決定論的プロセスとしての自由意志概念は,素朴デカルト的二元論という心的生活に対するより一般的なパースペクティヴから帰結しているのではないのか,とBloomは示唆します.