えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

さまざまな自由意志直観とその心理的メカニズム Nichols (2006)

http://dingo.sbs.arizona.edu/~snichols/Papers/Folk_Intuitions_on_Free_Will

  • Nichols, S. (2006). Folk intuitions on free will. Journal of Cognition and Culture, 6:57-86.

Journal of Cognition and Cultureのこの号は実験哲学で特集が組まれていたようです(※目次)。自由意志に関する論稿をいくつか見てみたいと思います。

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 ニコルスは自由意志に関する3つのプロジェクト(記述/実質/処方:※参照)を提示しつつ、アームチェア概念分析の問題点として文化差の無視や、なにより「記述的案件」に純粋に取り組まずと改訂的態度を採る点を指摘し、その代替として実験哲学の経験的概念分析の方法が導入されます。

 ニコルスは一方で、「「選択」は非決定論的プロセスである」直観を釣った既存の研究を紹介しつつ(Nichols 2004; Nichols & Knobe 2007)、「「選択」は決定論的プロセスである」という逆の直観を釣り上げた新しい研究を提示します。ここで紹介されている調査は、複製地球上にいる心理的複製者を想定させ、一人が行った決定と同じ決定を別の者が行うかどうかを尋ねるというもので、ちょっと被験者が少なすぎるものの、大方が「同じ決定をする」(=選択は決定されている)と答えるという結果が示されています。
 また道徳的責任についても、両立論的直観を釣った研究(古いものとしてViney etal. 1982, 1988(ただし決定論の同定方法に難あり); Nahmias et al. 2005)があるのに対し、シナリオに情動的負荷をかかると直観が両立論的になるが、かけないと非両立論的になるというより複雑なパターンが示された研究もあります(Nichols & Knobe 2007)。

 これらの様々な直観を支える心理的メカニズムは何か。選択に関する決定論的直観はマインドリーディングシステム(非決定論は予測に役に立たない)による説明、責任に関する両立論的直観は情動によるパフォーマンスエラーモデル(Lerner et al. 1998)か、あるいは情動は普通の道徳能力にも構成的に関わっているので情動中立的な判断はこうした能力をバイパスしているとする説明などが考えられます。一方、非決定論的・非両立主義的直観はおそらく冷たい認知に関わっており、義務に関する信念から派生してきているのではないか(see. Nichols 2004)という示唆が提示されます。