えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

ケプラーの伝記 ヴォールケル (1999) [2010]

ヨハネス・ケプラー―天文学の新たなる地平へ (オックスフォード科学の肖像)

ヨハネス・ケプラー―天文学の新たなる地平へ (オックスフォード科学の肖像)

  • 作者: ジェームズ・R.ヴォールケル,オーウェンギンガリッチ,James R. Voelkel,Owen Gingerich,林大
  • 出版社/メーカー: 大月書店
  • 発売日: 2010/09/01
  • メディア: 単行本
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  • ヴォールケル・J (1999) [2010] 『ヨハネス・ケプラー:天文学の新たなる地平へ』 (林大訳 大月書店)

  生き延びるためにケプラーについて学ぶの巻

  大変分かりやすい伝記でとても勉強になりました。180pと厚くない本ですが、ケプラーの科学的な業績よりも、ケプラーが生きた当時のオーストリアの政治・宗教的な状況がおおきくピックアップされている印象を受けます。生地でありカトリックとプロテスタントがどちらも信じられていた自由都市ヴァイル・デア・シュタットから、生徒時代を過ごしたルター派のテュービンゲン、数学教師として赴任したが次第にプロテスタントを締め付けたグラーツ、ティコ・ブラーエと共同研究し彼の死後『新天文学』を完成させたルドルフ二世のプラハ、内戦から逃れ安定を求めてたどり着いたリンツ、母親の魔女裁判に介入すべく赴いたヴュルテンベルク、そしてふたたび今度はプロテスタント抑圧の地と化したリンツ、そこから逃れ『ルドルフ表』を印刷するがカトリックへの改宗を迫られたウルム、両派の平和的共存を望むヴァレンシュタインがおさめるも三度対抗宗教改革をみることになるザーガン、そのヴァレンシュタインを辞職させんとする選帝候会議に駆けつけるとそこが最期の場所となったレーゲンスブルクと、ケプラーの移動ごとにその宗教的背景がていねいに解説され、プロテスタントでありつつも様々な宗派の中間に真理を求めたケプラーの人生がいかに翻弄されたかがよくわかります。
  また特徴的だとおもわれるのは、ケプラーの母の魔女裁判の様子の記述に、これは時間としてはそう長くない出来事にもかかわらず、まるまる一章が割かれている点です。それから『ルドルフ表』の口絵の図解きも興味深かったです。ここで描かれる神殿にはティコに至る大天文学者が登場しており、ケプラー本人は下の台座のところにいるにすぎません。しかしよく見るとその台座でケプラーが作っているのは、まさしくこの神殿の模型です。ケプラーは大天文学者たちを立てつつも、この大業績が自分ひとりの手によって設計されたことをさりげなくもたしかに主張しているんですね。