えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

自由意志の実験哲学をしてみよう Nahmias et al. (2005)

http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/09515080500264180#.UxPeT-N_s44

  • Nahmias, E., Morris, S., Nadelhoffer, Th. & Turner, J. (2005) Surveying Freedom: Folk Intuitions about free will and moral responsibility. Philosophical Psychology, 18, 561-584.

・両立論者も非両立論者も自分の見解の方が常識的・直観的だって言ってるぞ……
・普通の人の直観を実際に調べてみよう!(実験哲学)

研究1

・そもそも普通の人は「決定論」という語を自由意志と対立する意味で使っているようなので、論点先取を避けて「決定論」という語は使わないシナリオを用意。

【ジェレミー事例】
来世紀、我々は自然法則を全て発見し、その法則と世界の事物全ての現在の状態から、未来のどの時点に何が起こるかを精確に推論するスーパーコンピュータを作ったと想像しよう。このコンピュータは〔現在の〕世界の成り行きに関して全てを見ることができ、将来何が起こるかについて100%の精度であらゆることを予測することができる。このようなスーパーコンピュータが存在し、ジェレミー・ボーン氏が生まれる20年前、2150年3月25日のある時に、宇宙の状態を見たとしよう。コンピュータはそこで得た情報と自然法則から、ジェレミーは2195年3月25日の午後6時に、信託銀行に強盗に入ることが確定的であると推論した。案の定、スーパーコンピュータの予言は当たった。ジェレミーは2195年3月25日の午後6時に、信託銀行に強盗に入った。

2095 コンピュータの予言 ―― 2170 ジェレミー誕生 ―― 2195 ジェレミーが銀行強盗

あなたがどのように回答するかにかかわらず、このようなスーパーコンピュータは実際に存在し、実際にジェレミーの銀行強盗を含む未来を予言するのだと想像してください(そして、ジェレミーはこの予言について知らないと仮定してください)。

ジェレミーが銀行強盗したとき、彼は自分の自由意志に基づいて行為したと思いますか?

  • 結果
あると答えた人の割合 自由意志 道徳的責任 他行為可能性
悪い行為(銀行強盗) 76% 85% 67%
善い行為(子ども助ける) 68% 88% 38%
善悪無記(ジョギング) 79% 43%

・人々は決定論が自由意志や道徳的責任と非両立だとは判断しない
・自由意志/責任判断と他行為可能性判断は乖離し得る (フランクファート的直観があるが悪い行為の場合には出ない? あるいは悪い行為の場合のみ他行為可能性が必要?(Wolf, 1980:「非対照テーゼ」))

研究2

・ジェレミー事例は、論点先取を避けるあまり決定論が被験者に顕著に提示されていないかも(むしろ「予測可能性」?)

【フレッドとバーニー事例】
全ての人間の持つ信念や価値の完全な原因が、その人の遺伝子と周囲の環境の組合せであるような世界を想像してください。たとえばこの世界である日、フレッドとバーニーと名づけられた一卵性双生児が生まれ、母親はこの子たちを養子に出したとしよう。フレッドは悪田さん夫妻、バーニーは良田さん夫妻の養子になった。フレッドの場合、遺伝子と自己中心的な悪田さん一家に育てられたことよって、なによりもお金に価値を置くようになり、どのような手を使ってもお金を得ることは問題ないと信じるようになった。バーニーの場合、遺伝子と優しい良田さん一家に育てられたことによって、なによりも誠実さに価値を置くようになり、他の人の剤さんは常に尊重すべきだと信じるようになった。フレッドもバーニーも自分の行いに関して熟慮することができる知的な人物である。

ある日、フレッドもバーニーは各々、1000ドルが入った財布を見つけ、落とし主を特定することはできた(ただし面識はなかった)。二人とも、周囲に誰もいないということは確かにわかっていた。悪田フレッドは熟慮の末、自分の信念と価値ゆえにお金を取った。良田バーニーは熟慮の末、自分の信念と価値ゆえに財布を落とし主に返した。

この世界では、人の遺伝子と環境がその人の信念と価値の完全な原因である。このことを踏まえると、もしフレッドが良田さん夫妻の養子になっていたら、財布を返させるような信念と価値を持っていたはずだし、もしバーニーが悪田さん夫妻の養子になっていたら、財布をとらせるような信念と価値を持っていたはずである。

あると答えた人の割合 自由意志 道徳的責任 他行為可能性
フレッド(善い行為) 76% 60% 76%
バーニー(悪い行為) 76% 64% 76%

・人々の素朴な直観は非両立論を支持しない
・ただし非両立論的判断の数も無視できない。人々は両方の直観を持っている? 個人ごとに直観がかなり異なる?

論点

・大学の生徒だけが被験者
・インタビューや行動実験との組合せが求められる
・決定論の提示がやはりまだ不十分かも? インワーゲンのような定式化は理解が難しすぎるが、下手に新しい要因を導入するのは避けたい。良い方法求む。
・チェックはしたが、ありそうもないシナリオのせいで自由意志とは独立の理由で決定論が否定されているかもしれない(特にジェレミー事例はみんなあり得ないと判断したので注意書きを入れてある)。(自由意志信念があり決定論信念がない「だけ」では、非両立論を帰属できない)

・哲学者が人々の直観に訴えるとき、その内容についてもっと明らかにしよう
・反省的直観を調べた方がよい? (Inwagen, 1992; Lycan, 2003; Mele, 1995) でも訓練された哲学者の反省的均衡に合致するような概念分析は、哲学的虚構にすぎないかも? (Mele, 2001)。
・でも哲学者が興味を持つ自由意志概念は我々の責任の帰属などに密接に関わるのだから、やっぱり素朴な直観を見るべき。
・また自由意志に関して特定の理論をとることは、我々が価値を置く関連する概念や実践に改訂を迫るかも知れず、何が改訂されるのかを知るためにも経験的探究が必要。
・自由意志の理論は人々の直観と提携している。単なる哲学的虚構以上のものを作るためにも、直観との連携について注意深くあれ!