えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

自由意志の現象学へ向けて Nahmias et al. (2004)

http://www2.gsu.edu/~phlean/papers/Phenomenology_of_Free_Will.pdf

  • Nahmias, E., Morris, S., Nadelhoffer, Th. & Turner, J. (2004) The phenomenology of free will. Journal of Consciousness Studies, 11, 162-179.

・自由意志の理論は現象学に一致するべきだと哲学者達は考えるが、理論を背負った哲学者達はそもそも現象学記述の点で一致しない。そこで、普通の人々の現象学に関して体系的なデータを得られれば、少なくとも挙証責任がある側を定める事が出来る。

哲学的論争

・哲学者は自由意志経験に関して少なくとも次の3つの点でよく争っている。

(1)「ほかのようにできた」をカテゴリカルに分析するか条件的に分析するか
  • Searle「きみは行為の経験をよく反省してみると、他の全ての条件が同じでも別のやり方もあったという可能性を感じるだろう」(1984; Campbell, 1951; Lehrer 1960)
  • Grunbaum「別のようにも出来たという感じを良く反省してみると、そのときに別の動機を持っていたなら、別のように出来たということが明らかになるだろう」(in Lehrer 1960;Mill in Boyle et al., 1976)
(2)自由な行為は行為者によって引き起こされているのか、行為者の心的状態によって引き起こされているのか
  • O’ Conner「私は理由によって行為するよう引き起こされているのではなく、理由の観点から私自身が行為を生み出していると、思われる」(1995; Horgan et al., 2003)
  • Priestly「望ましくみえる果物を選ぶ事を妨げるものは何も無い事に、全ての人が気づく事が出来るだろう」(in Boyle et al., 1976; Stace, 1952; Hume; Dennett, 1984)
(3)自由な行為の典型例は、「きわどい選択(close-call)」と「確信に満ちた選択(confident)」のどちらか
  • Inwagen「反省した後でも自明ではない選択の場合にのみ、自由意志は発揮されるので、自由意志は稀である」(1989; Kane, 2002)
  • Frankfurt「行為者が自由なのは、自分が満足している欲求の下で行為したとき」(1984; Dennett, 1984; Wolf, 1990)」

・両者の違いが、きわどい選択の経験と確信に満ちた選択の経験のどちらに焦点を当てているかに由来するというのは、ありそうである。

関連する心理学的研究

・あんまりない!

  • Well (1927). Phenomenology of act choice (アメリカの内観主義者)

・きわどい選択には否定的感情、制御できてなさ
・受動性:「努力を要する」選択において、思考や欲求が、意識に「入ってくる」
 →リバタリアン的な現象学記述に困難
・被験者は内観に関して訓練を受けるので、理論負荷的になってしまうという方法論的問題はある。しかし目下の目的はよく訓練された哲学者の内観に対する懐疑であり、普通の人による報告は「哲学的」理論によっては殆ど汚染されていないと考えてよいだろう。

  • 自由知覚(perceived freedom)の研究(Ivan Steiner in Perlmuter and Monty 1979)

・被験者に、選択を行う行為者の記述を提示し、その行為者の自由度(あるいは責任)に関して判断させる
・行為者の選好や性格にあった選択の方が、同じ程度魅力ある選択肢からの選択や、不確実性の下での選択よりも、自由の帰属が高まる。責任帰属は自由帰属をトラック
・つまり少なくとも他人に関しては、人々は「確信に満ちた選択」のほうが自由だと考えている(ただし自分経験についてはあまり分からない)

  • Malcom Westcott (1988) Psycholgy of Human Freedom 

・インタビュー 「どういうときに自由を感じますか?」 
・意思決定よりもかなり広範な自由経験を尋ねているが、「自己への指向性」(長期的目標へのステップ)「責任の無さ」「熟練された行動」で点数は高くなり、「同じくらいの選択肢の間での選択」では低くなる。おおむね、「きわどい選択」ー「確信に満ちた選択」に対応
・逆に自由の欠如の感覚には「予防」「不快感」「衝突・躊躇」と行った状況が対応。「外的誓約からの自由」を強調する両立主義に支持

予備研究:自由意志の現象学

・もっと哲学と心理学を接近させるべく自らちょっと研究してみる。

あなたは2つの選択肢からなんとか選択を下したとイメージしてください。片方を選びましたが、あなたは自分自身、「もう片方を選ぶ事も出来たな」と思っています。(これまでこのような決定を行った例があればそれを思い出す事も出来ます)
「もう片方を選ぶことも出来た」と考えるとき、あなたの心の中におこったことと一番合致しているのは次のうちどれですか?
A:決定を行った時と状況が全て完全に同じでも、別のように選ぶ事も出来た
B:何かが違っていれば、別のように選ぶ事も出来た(例えば、考えているときとき別の考慮事項が浮かんだとか、そのとき違った欲求を持っていたとか)
C:どっちでもないです

・96人の初等哲学クラスの学生(自由意志問題を学ぶ前を被験者にしたところ、62%が両立主義的回答(B)、35%がリバタリアン的回答(A)をした。

・さらに、熟慮と選択の場面での現象学を把握するため、気づいた思考を全て喋らせる Talk-Aloud method (Ericsson & Simon, 1993)を意思決定課題に採用。3つのマンションの記述を読ませ、実際どこに住みたいか決定してもらう。
・全体的傾向として、自分が気に入る/気に入らない特徴に単に言及するだけ。決定を下している自己を示唆するような事は殆ど言わない(Wellの研究と一致)
・被験者はおおむねすぐに決定を下した。際どい選択の場合には、決定を下すという経験がより顕著になるかも? あるいは道徳やプルーデンスに関わる選択でも面白い結果が出そう
・現象学的インタビューを洗練させる事が量的研究への第一歩になるかも?

総括

・現象学を研究する方法はまだまだ萌芽的である。我々は可能な限り現象学的データをなんとしても集めに行くべき。そのとき哲学者は、答えるべき問いを精確にセッティングするという重要な役割を持つだろう。
・本論文で示せた限りの証拠からは、リバタリアンは自説を支持する現象学的データにもっと注意を払うべきだと言える。なぜなら、
(1)自由の知覚は確信ある選択場面での方が大きいし
(2)「別のように出来た」はカテゴリカルであり、
(3)Talk-Aloud method によっても自分自身を因果の源泉だと感じるような行為者は見いだせないからである。
・もっと現象学を研究しよう!