えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

道徳判断において意図性と力は相互作用してる件 Greene et al. (2009)

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010027709000420

  • Greene, J., Cushman, F., Stewart, L., Lowenberg, K., Nystrom, L. and Cohen, J. (2009) Pushing moral buttons: The interaction between personal force and intention in moral judgment. *Cognition*, 113: 364-371

  これまでの研究から、トロリージレンマと橋ジレンマでの道徳判断の違いには「意図性」(手段か副作用か)と「直接性/パーソナル性」が関与していることがわかってきています。本論文は両者の関係を明確にしようというものです。

(1)パーソナルな力

・まず「パーソナルな力」という概念を導入します。「他人に直接的に影響する力が、自分の筋肉によって引き起こされている場合」、相手にパーソナルな力が働くとされます。この要因を「物理的接触」および「加害者と被害者の空間的近接性」から区別すべく次の4ジレンマが用意されます。

  物理的接触 空間的近接性 パーソナルな力
普通
棒(棒で突き落とす) ×
スイッチ(近くからスイッチによって床を開閉して落とす) × ×
遠隔(遠くからスイッチによって床を開閉して落とす) × × ×

・結果、「パーソナルな力」(スイッチ vs 棒)の効果(パーソナルな力を含む条件はより許容されない)は有意に見られますが、「物理的接触」(スイッチ vs 遠隔)および「空間的近接性」(普通 vs 棒)の有意な効果は見られないことがわかりました。このことは、これまでの直接性にかかわる実験はパーソナルな力を釣っていたことを示唆します。

(2)意図性とパーソナルな力

・続いて、意図性とパーソナルな力の交互作用を調べるために次の4ジレンマが用意されます。

意図性 パーソナルな力
ループ(伏線に引き込んで一人を轢かせて止める) ×
ループ+重り(重りのある伏線に引き込んでトロッコを止めるが、伏線上にいる人は轢かれる) × ×
障害物押す(高くて狭い橋の向こうにあるスイッチで止めるが、狭いので人を突き落とさないとスイッチに届かない)
障害物衝突(高くて狭い橋の向こうにあるスイッチで止めるが、時間内にスイッチを押すために走ると人にぶつかって下に突き落としてしまう) ×

・結果、主効果がでたのは意図性のみで、「ループ」「ループ+重り」「障害物衝突」の比較では何の効果も見られませんでした。従って、意図性の主効果はパーソナルな力との連結で説明されます。パーソナルな力は危害が手段である場合にのみ効果を発揮するようです。

議論

・交互作用からは、道徳判断のシステムが意図性とパーソナルな力についての統合された表象(「筋肉の−及ぶ範囲内の−目的」)上で動作していることが示唆されます。つまり道徳判断のメカニズムは身体化された認知の一種だと言うことです。
・我々の道徳的悪さに関する感覚は、かなり基本的な運動的性質に結びつけられており、また意図という要因がパーソナルな力に対する我々の感受性に深く結びついています。