えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

道徳判断に関するfMRI研究の件 Greene et al. (2001)

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11557895

  • Greene, J.D., Sommerville, R.B, Nystrom, L.E., Darley, J.M., and Cohen, J.D. (2001). An fMRI investigation of emotional engagement in moral judgment. Science, 293 (5537): 2105−8.

仮説

  トロッコ問題においてスイッチを切り替える「トロッコジレンマ」と、橋から人を突き落とす「橋ジレンマ」の間で、一人を犠牲に五人を救うという行為に対する人々の判断が違います。これをどう説明するか。両事例の重要な違いは、「後者の課題が感情に関係している」点にあるとグリーンは考え、2つの仮説を立てます。

  • (1)橋ジレンマでの熟考 contemplation 中には、トロッコジレンマの場合よりも脳の情動関連部位の賦活が見られる
  • (2)強い感情を喚起するジレンマにおいてその感情と一致しない反応をする少数の人(例えば、橋ジレンマで突き落としを適当だと判断する人)は、反応時間が長い。感情を喚起しないジレンマではこのような効果はない。

実験1

  つづいて、様々なジレンマ状況が60個用意され、予備の被験者によってあらかじめ道徳的/非道徳的なものに分けられます。道徳的ジレンマはさらに2人の記録者によって、橋ジレンマのような「パーソナル」とトロッコジレンマのような「パーソナルでないもの」に分けられます。このとき用いられる基準は、

  • (a)問題の行為が深刻な身体的危害につながると予想できるか
  • (b)結果として危害が特定の人やグループのメンバーに降りかかるか
  • (c)その危害は、別のグループへの既存の脅威をそらした結果であるか否か

の3つです。yes, yes, no のみが「パーソナル」に振り分けられます。そして、この60のジレンマそれぞれに関して、被験者は問題となる行動が「適切」か「不適切か」を判断するよう教示されます。
  結果はこちらこちら。道徳−パーソナル条件においては、他の2条件と比べ、感情に関係する脳部位(中前頭回・後帯状皮質・両側の角回)が優位におおく、また、ワーキングメモリに関連する脳部位(右の中前頭回・両側の頭頂葉)が優位に少なく活動していました。

実験2

  実験2は基本的に実験1の再現で、リアクションタイムが計られているところだけが違います。結果はこちら。道徳−パーソナル条件では、「適切」という判断は優位に遅く、その他の2条件では判断間で回答時間の有意差はありませんでした。

結論

  仮説(1)も(2)も支持されたと言えます。また、(2)のような感情による干渉が起こることは、感情が道徳判断に単に付随するものなのではなく、道徳判断に影響を与えているものであることを示唆しています。それから、道徳−非パーソナル条件における判断は、道徳−パーソナル条件における判断よりもむしろ、道徳に関係ないジレンマ条件の判断の方に似ているということができます。