http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010027712002557
- Seidel, A. & Prinz, J. (2013). Sound morality: Irritating and icky noises amplify judgments in divergent moral domains. Cognition, 127: 1-5
道徳に関する心理学研究は、別種の道徳判断の根底には別種の感情がある事を示唆しています(Rozin, Lowery, Imada, & Haidt, 1999)。例えば、自律の侵犯(暴力・盗み・不正配分など、危害が関わる)に関する判断は「怒り」に、純粋性の侵犯(獣姦・食肉・近親相姦など危害は無いが「自然」に反する)に関する判断は「嫌悪」に関連します。しかしこれまで、実験的に怒りや嫌悪を誘発しそれが領域選択的に道徳判断に影響する事を明確に示した例はありませんでした。
そこで筆者らは、それぞれの情動を音で誘発した後、自律の侵犯シナリオと純粋性の侵犯シナリオについての道徳判断を問うパラダイムを考案します。怒りを誘発するのに使われたのはノイズミュージック、嫌悪を誘発するのに使われたのは嘔吐です。すると確かに、自律の侵犯シナリオにはノイズミュージックを聞いた群だけがより強い否定的判断をみせ、純粋性の侵犯シナリオには嘔吐を聞いた群だけがより強い否定的判断をみせました。
この実験はこれまでの相関の研究よりもかなり強力に、怒りや嫌悪が独立の道徳領域に対して因果的効力を持つことを示しています。怒りと嫌悪の分業の存在は、自律に対する脅威には攻撃的な反抗(怒りに関連する行動傾向)が適切であり、純粋性に対する脅威には撤退(嫌悪に関連する行動傾向)が適切であることを考えると納得がいくでしょう。