えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

死にたみは功利主義を減らす件 Trémolière, Neysa and Bonnefon (2012)

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010027712001035

  • Trémolière, B. Neysa, W. D. and Bonnefon, J-F. (2012). Mortality salience and morality: Thinking about death makes people less utilitarian. Cognition, 124: 379-384.

  存在脅威管理理論(Terror Management Theory)の二重過程モデルによると、人間は自らの死についての思考に至ると、まずこの意識的思考の抑圧にリソースを割き、つづいて自尊心を高めたりするためその他の防衛策を取ります(Goldenberg & Arndt, 2008; Hayes, Schimel, Arndt & Faucher, 2010)。この論文は第一段階に注目し、死が顕著になるとリソースが減るので道徳ジレンマ状況で功利主義判断が出にくくなると予測しました。
  そこで、「自分の死について考えたときにわき起こる情動について簡単に描写してください」等の問い(Greenberg et al. 1990)に答えさせて死を顕著にさせた後(統制群では痛みに関する質問)、高コンフリクトな道徳的ジレンマ(ただし登場人物は死なないように改変する)あるいはコンフリクト無しのシナリオに関して判断させます。すると、高コンフリクトなジレンマにおいては死を顕著にした条件での功利主義的判断が確かに減ります(実験1)。さらに、死の顕在化と道徳判断の間に認知的負荷かかる課題(難易度3種)を入れることで、死の顕在化による消費リソースは相当高い認知的負荷に比する事が示されました(実験2)。
  なお功利主義的判断が減ったのは死の顕在化が情動を喚起したからだという対抗仮説がありえますが、他の研究によるとそのような事は無いようです (Rosenblatt et al. 1989; Arndt, Allen, & Greenberg, 2001).