えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

風景と時間割引:田舎にいた方が未来の報酬への評価が高くなる件 van der Wal et al. (2013)

http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/280/1773/20132295.full.pdf+html

  • van der Wal, A., Schade, H., Krabbendam, L., & van Vugt, M. (2013) "Do natural landscapes reduce future discounting in humans?" *Proc. R. Soc. B.* 280 20132295

  人間には間近な報酬を好み長期的な報酬を割り引く非常に強い傾向があります。こうした時間割引には進化的背景があるはずです。資源が豊かで安定した環境ならば、有機体はゆっくりとした繁殖戦略をとるでしょうし、競争が激しく過酷な環境では逆の事が起こるでしょう(Ellis et al, 2009)。実際動物実験では、食物の不足といった環境要因が高い割引率につながる事が見出されています(Snyderman 1983)。
  この研究では、【仮説1】<自然風景におかれた人々は都市風景におかれた人々と比べて時間割引率が減る>という仮説を立てます。自然風景は予測可能性や豊かな資源の手掛かりを与える一方、都市風景は不安定で人々との競争を知覚させるからです。
  さらに時間割引には「自己制御」と「未来評価」に関わる2つの別の神経メカニズムが影響すると示されている事を踏まえ(Buechel 2011; Figner et al. 2010)、風景の影響は【仮説2a】自己制御を介している/【仮説2b】未来の報酬の評価を介している/【仮説2c】両方を介している、という仮説を立てます。

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  実験1では刺激として、自然条件では森や草原、都会条件では建造物や路地(人は写ってない)の写真が用いられ、これを被験者に2分間スクリーン上で見たあとに、時間割引ゲームを行わせます。これは、「今貰える100ユーロの報酬」に等しいと思われている「90日後の報酬額」を決定するもので、この額の低さが時間割引率の低さを示しています。結果、自然条件での時間割引率は、都市条件と比べ10%ほど低い事が分かりました。(【仮説1】○)
  さらに実験2ではストループ課題、未来評価課題が用意され、自然の風景におかれる事が未来への評価を増す事がわかりました。他方、自己制御の影響は見出されませんでした(【仮説2b】○)。
  最後の実験3では、実際に被験者にアムステルダム近郊の森あるいは都市部で歩かせることが自然/都市条件になります。ここでも【仮説1】および【仮説2b】を確証する結果が出ました。

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  自然の中にいると、未来への評価が上がり、時間割引率が減るようです。