えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

やるべき時にやるべき事ができない原因一覧 Elster (2010)

The Thief of Time: Philosophical Essays on Procrastination

The Thief of Time: Philosophical Essays on Procrastination

  • Andreou & White ed. (2010) *The Thief of Time: Philosophical Essays on Procrastination*

【目次】
Part I
3 Sarah Stroud "Is Procrastination Weakness of Will?"
5 Jon Elster "Bad Timing" ←いまここ
7 Christine Tappolet "Procrastination and Personal Identity"
Part II
9 Elijah Millgram "Virtue for Procrastinators"
Part III
12 Chrisoula Andreou "Coping with Procrastination"

前置き

・この論文では、点的な「行為」と時間幅を持つ「課題」を区別する。その上で、<行為のタイミングが(早いのであれ遅いのであれ)不合理な事例>を問題にする。
・合理的選択理論をつかう。何時何をするべきかを教えてくれる合理的選択理論は、極端な延期と賢い延期を区別するを規準を与えてくれる。
・合理的な行為に関しては左図のような捉え方をする。これを用い、さまざまな不合理なタイミングでの行為の源泉を網羅的に検討する。
・未来の価値を指数的に割り引く際には、いやな課題を合理的に後でやることがありうる(合理的選択理論からくる反直観的な点)。不合理な先延ばしが起こるのは、時点1において嫌な課題を時点2にやることを意図したのに、時点2が来たときに実行を時点3まで延期した場合である。

早すぎる行為の源泉

双曲線割引

・未来のtの効用一単位あたりがもつ現在の価値を1/1+tとする
・ワイン飲んだ時の効用は今年2.75、一年後5.00、二年後9.00とする
・現在の価値:今年2,75 一年後5.00*1/2=2.50 二年後9.00*1/3=3.00 →二年後まで取っておくことにする
・一年後の価値:一年後5.00 二年後9.00*1/2=4.50 →飲んじゃう……こうして早すぎる行為は起こる

拙速

・拙速 = 早い行為を遅い行為よりも選好すること
・強い感情に突き動かされて、あまり情報を集めることなく即座に行動を迫られる場合がある。
・情報をより集めることのコスト高い場合(緊急時)にはこのような行為は合理的だし、ぐずぐずしていると先延ばしになる。
・情報を集めるために待つことの機会費用が無視できる程度な場合には、行為は早すぎることになる。

認知的閉鎖

・心は特定の主題について何の意見も持たないことを極端に嫌う(認知的閉鎖)ので、合理的選択の観点から不十分な情報収集に基づいて信念を形成してしまうことがある。こうした信念を基盤とした行為は不合理な形で早すぎることになるだろう。

先延ばし行動の源泉

双曲線割引

・治療に行く場合の効用は今日-2.75、明日-5.00、明後日-9.00とする
・今日の価値:今日-2.75、明日-5.00*1/2=-2.50 明後日-9.00*1/3=-3.00 →明日にする(これは不合理な先延ばしではない(前述))
・明日の価値:明日-5.00、明後日9.00*1/2=-4.50 →明後日にする……こうして先延ばしは起こる
・エインズリーが示したように、同じ<早くて小さな報酬と遅くて大きな報酬との間の選択>に繰り返し直面すると仮定することで、行為者は自分の選択を<まとめ>、先延ばし傾向を克服することができる(後の報酬の現在の価値の総和が、小さな報酬の現在の価値の総和を上回るので)。

情動

親に連絡するのを先のばそうかという子供がおり、
(1)<先のばした時に感じる漠然とした罪悪感>を避ける欲求より
(2)<電話口で親に叱責される時に感じるだろうはっきりした罪悪感>を避ける欲求が強い
ような場合には先延ばしが起こるだろう。
・同じような理屈から、完璧主義者や恥を嫌う人は先延ばししやすい(Fee and Tangney)。(先延ばしの間彼らはそこそこの不快さを感じるが、それを恥をかく事より選好している)
・時間割引や誤った認知処理に基づくかぎり、こうした先延ばしは不合理である。

情動の欠如

・特定の脳損傷を負って情動を無くした患者は、つまらない課題に必要以上に時間を割くようになる(Damasio)。機会費用の理解に障害が生じているのである。
・機会費用の無視は健常な人でも次の2つ理由で起こる。

損失回避と十分な理由

(1)プロスペクト理論によると、人は損失回避傾向によって、機会費用より自己負担の方に不合理に(約2倍の)重要性を付加してしまう。(買い物する際、最も安い品を求めて街中を歩き回ってしまうが、そこで使われる時間の価値の方が大きいとは気づいていないような場合。)
(2)一方で、人には十分な理由に従って行為しようという欲求もあり、決定を下すさいにリソースを無駄遣いしてしまうことがある。(cf. Shafir, Simonson and Tversky)
・<十分な理由に従って行為しようという欲求>は完璧主義とそれにともなう決断力のなさの一側面である。

冷たい認知バイアス

【計画の失敗】
・課題を完遂するのにどのくらいかかるかを見積もる時、不適切なヒューリスティックに基づいてしまうという「計画の失敗」が認知バイアスとしてよく挙げられる。
・このバイアスは、過去の類似例を考慮しなかったり(基準率の無視)、アクシデントが絶対に起こらないと確信することに由来する。

熱い認知バイアス

【希望的観測】
・希望的観測によって嫌な課題にかかる時間は過小評価され、先延ばしにつながる。

【動機づけられた無知(パラドキシカルでない自己欺瞞)】
・自分の真の能力が良く分かっておらず、それを知るのが怖い場合には、自分の能力の低さを明らかにするような課題は避ける傾向が見られるだろう。
(というのも、先延ばししてもやり遂げられたなら自分を賞賛できるし、間に合わなかった場合でも自分の能力ではなく努力に時間を割かなかったことを責めれば良いので)

結論

〔省略〕