えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

草は学習しないので行為しないけど鳥は学習するので行為する Dretske (1999)

https://link.springer.com/article/10.1023/A%3A1005541307925

  • Dretske, F. (1999). Machines, plants, and animals: The origins of agency. Erkenntnis, 51(1), 19−31.

※内容的には『行動を説明する』の2章におおむね対応しています

  • 合目的行為とは思考によって制御されている行動である。
    • 行為者であるためには、思考と行動ができるだけでは十分ではない。思考が行動を説明するのではなくてはならない。

1. 行為と行動

  • 思考が行動を制御するとはどういうことなのか?
  • 思考が行為を引き起こすだけでは十分ではない。

【従順な拡声器】
拡声器に「素早く震えろ」と言うと振動板が素早く震える。このとき、拡声器は発話の意味通りに振る舞っているが、その振る舞いを制御しているのは意味ではなく音である。実際、「静かにしろ」と言っても振動板は素早く震える。

    • 動物の内部に有意味な出来事(思考のような何か)があり、それが行動を引き起こしていたとしても、「その動物がその出来事の意味ゆえに行動している」とは限らない。
      • 意味は行動の引き起こしとは全く無関係かもしれない。
  • 意味の無関係さは人工物の場合明らかである。
    • 私たちは、コンピュータの様々な電気的状態に意味を割り当てるが、コンピュータ自体の振る舞いを制御しているのはその意味ではない。これが、機械の振る舞いを「行為」と呼べない理由である。
      • WORDにおいて[F7]キーを押すことは「スペルチェック」を意味する。だがこのことは、[F7]が押された時どうしてコンピュータはスペルチェックをするのかとは関係がない。この事例は【従順な拡声器】と同じである。
  • たしかに、道具や機械、そして動物が「知的な」振る舞いを示す際には、私たちは志向姿勢をとりがちである。
    • だがこのことから帰結することは何もない。「スペルチェックしてと言ったらしてくれるのでコンピュータは合目的行為者である」と言うのは、従順な拡声器が合目的行為者であると言うのと同じくらい馬鹿げている。 
      • 別の例:私たちは、自動販売機の振る舞いを投入金額によって説明する(100円しか入れなかったのでペットボトルは買えなかった)。だが自動販売機の振る舞いを説明するのは、投入金額ではなくて、投入されたもののサイズ・形・重さである。
  • 「有意味な出来事がXを引き起こすこと」と「ある出来事の意味がXを説明すること」は違う。そして、思考による行為の制御とは後者だと考えると、機械は行為者ではないことになる。
    • だがこの基準でいくと、人間も行為者ではなくなってしまうのではないか?
      • 人間の耳だって、反応しているのは音であって意味ではない
  • ここで、機械にいったん立ち戻ってみよう。
    • 機械の振る舞いは有意味な内的状態によって制御されているが、その意味によって制御されているわけではない。機械で何が欠けているかを見ることで、意味による行為の制御についての理解が深まる。

2. 機械

  • サーモスタットは暖房をつけたり消したりすることで部屋を一定の温度に保つ。これが行為ではないのは何故か?
  • サーモスタットの振る舞いは、温度を表象する内的要素(金属板の湾曲)によって制御されている。ここには、「振る舞い」「因果」「意味」(表象)が揃っている。
    • しかし、金属板の湾曲が温度にかんする何事かを意味しているという事実は、サーモスタットの振る舞いの原因にかんする事実(金属板の湾曲に関する事実)ではあるものの、サーモスタットの振る舞いを説明するような事実ではない。
      • サーモスタットの振る舞いを説明するのは、その原因の物理的性質(湾曲率)である
  • ただし、意味は、機械の設計者を通じて間接的にサーモスタットの振る舞いを説明する。
    • 部屋の温度を制御したいという私たちの目的に照らし、金属板の湾曲が部屋の温度の信頼可能な指標であるからこそ、それは暖房のスイッチにされた。この点で、サーモスタットは金属板の湾曲の意味のゆえに一定の振る舞いをすると言うことができる。
      • この点について以下でまた触れる。
3. 草
  • 行動の説明は、システムの内側の出来事に言及するだけでなく、その内的なあり方をもたらした歴史的出来事に言及することもよくある。
    • このとき、意味は行動の説明により直接的に関連してくる。この種の説明がみられる典型例は草である。
  • スカーレット・ギリアの花は7月中旬になると赤から白に色が変わる。
    • この振る舞いは何故生じるのか。説明の一つに、花粉を運んでくれる生物が活動する時期に合わせて花の色を変えているというものがある(Paige and Whitham 1985)。
    • この振る舞いのためには、植物内部には何らかの時計(時間を表象する内的状態)があるのでなくてはならない。これはサーモスタットにおける金属板にあたる。だが重要な違いとして、植物の場合には制作者がいない。
      • 機械の場合、「私たちがXの意味について知っているがゆえに、それをYの原因とする」ということが成立するが、植物の場合はそうではない。
  • 植物の場合に行動を説明してくれるのは、「今日の草の先祖である過去の草が、7月中旬にアラームを鳴らすような時計によって行動を制御されていたことによって、比較優位を享受してきた」という事実である。
    • このような植物は「誤る」ことがありうる(例:7月中旬にしか起こらない化学的変化が6月に起こってしまった場合)
  • この種の内的表象によってもたらされる行動は、志向的語彙で記述したくなる(「植物は送粉者をひきつけ「ようとしている」」)
    • だが、こうした植物は、行為したり目的を持っているとは明らかに言えない。

「こうした植物は、その振る舞いが送粉者をひきつけることに成功しようがしまいが色を変化させる。今日の植物の振る舞いを説明するのは、その植物の振る舞いが送粉者を集めるということではない。そうではなく、今日の植物が遺伝子を受け継いでいる先祖の類似の行動が送粉者をひきつけたという事実が、今日の植物の振る舞いを説明するのである。〔……〕今日の時計のアラームシグナルの意味は、今日の植物の行動とは無関係である。」

4. 動物
  • ところで、人間の行動もかなりの部分が植物の行動と同じものである。自分が何を考え・欲しているかとは独立に生じ、コントロールがきかない(例:呼吸)。
  • だが、私たちの行為の多くは、そうした行動を元にしたものである。
    • しないわけにはいかないことでも、ある程度ならそれを制御することができる(例:20秒息を止める(行為))。完全に生得的もしくは完全に学習された行動というのはほとんどない。
  • ここで単純な学習の例を考えてみる。

鳥がある蝶Mを食べたところこれは毒で吐き出してしまった。それ以降鳥はMに似ている蝶を避けるようになった。ある日、鳥はMに擬態しているが食べられる蝶Vに出会ったが、Vを見ると逃げ出してしまった。

  • ここでは、鳥の思考の意味(「Vはまずい」)が行動を制御している。
    • なぜここで思考(記憶)について語ることがで適切かと言えば、行動が知覚的遭遇の結果として変化しているからだ。
      • この事例とサーモスタットやスカーレット・ギリアの事例との違いは、あるシステムの行動の成功に関連する出来事がそのシステムの将来の行動に関連している点にある。
  • 有意味な内的表象がありそれが行動を引き起こす、という因果的構造はサーモスタットの例でも鳥の例でも同じである。
    • ここでの学習(オペラント学習)のポイントは、そうした内的表象を行動のコントロール回路に結びつけることで、行動が成功するために必要な外的条件が生じたときにまさに行動が生じるようにしているという点にある。
  • 従ってここでは、鳥の内的表象の「意味」が行動に直接的に関係している。
  • 自動販売機の例をもう少し詳しく見てみる
    • もし硬貨の大きさ・形・重さが金額の信頼可能な指標でなかったとしたら、そもそも自動販売機は硬貨の大きさ・形・重さに応じて振る舞うようなものになっていなかっただろう。この意味で、硬貨の金額は自動販売機が何故いまのように振る舞うかの説明に寄与する。
      • このような説明を「構築的説明」と呼ぶ

【構築的説明】(Structuring explanation; Dretske 1988)
 ある結果(振る舞い)を説明する際に、その原因に言及するのではなく、その原因がその結果を生じさせるようにシステムが作られているのは何故なのかに言及する説明。

  • 同様に、鳥の表象が回避行動を生じさせるようになっているのはなぜかというと、その表象は有毒な無視が目の前にいることを意味しているからだ。
    • この意味で、鳥の行動は意味によって制御されている。従って、鳥は行為者であり行為している。