えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

構築原因、「何故」の問い、スーパーヴィーニエンス Dretske (2010)

A Companion to the Philosophy of Action (Blackwell Companions to Philosophy)

A Companion to the Philosophy of Action (Blackwell Companions to Philosophy)

  • O'Connor, T. and Sandis, C. (eds.)(2010). A Companion to the Philosophy of Action. Oxford: Wiley-Blackwell.
    • 18. Dretske, F. Triggering and Structuring Causes. (pp. 139−144)

 サーモスタット内部の出来事(タイプ)Cが、ガレージの扉の解放(E)を起動している(triggers)場合、サーモスタットの振る舞い(行動)とはEではなく、「CがEを引き起こすこと」である。だからこの振る舞いの説明というのは、Eの説明ではなくてCがEを引き起こすことの説明になる。サーモスタットの内部にあってガレージの扉の開放を引き起こしている(起動している)ものが何なのかを理解しても、それでは(まだ)サーモスタットが何故そのように振る舞うのか、なぜガレージの扉を開くのかを理解したことにはならない。サーモスタット内部の関連する配線を見れば、この装置がどうやって[how]扉を開けているのかはわかるかもしれない。だが、何故[why]なのかはわからない。何故に対する説明は構築原因によって与えられるからだ。つまりこの場合、電気技師のヘボ仕事が構築原因に当たる。この人物こそ、サーモスタットをこのようにヘンテコな仕方で振る舞うようにさせた張本人なのだから。

 ここで注意すべきなのは、ある装置の振る舞いの構築的説明のなかで言及される事実というのは、その装置の現在の物理的状態にスーパーヴィーンしていないという点である。2つの物理的に同一なサーモスタットがあり、全く同じ仕方で振る舞う(家が寒くなるとガレージのドアを開く)としても、そうした振る舞いが全く異なる仕方で説明されるということがありうる。第一のサーモスタットがこのように振る舞うのは、電気技師が配線を誤ってしまったからだとせよ。また第二のサーモスタットがこのように振る舞うのは、落雷が家に落ちた際に回路が短絡してしまったからだとせよ。なるほど、いま問題となっているサーモスタットはもちろん物質的システムであるから、その振る舞いも当然まるっきり物質的過程である。しかしながら、なぜサーモスタットがそのように振る舞うのかを因果的観点から理解したければ、システムの外部に出て、事物がそのように配置されたのはどうしてなのかを理解しなくてはならない場合が少なくともいくらかはある。 (pp. 141−142)