White Queen Psychology and Other Essays for Alice (Bradford Books)
- 作者: Ruth Garrett Millikan
- 出版社/メーカー: The MIT Press
- 発売日: 1993/04/29
- メディア: ハードカバー
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- Millikan, R. (1993). White Queen Psychology and Other Essays for Alice. Cambridge, MA: MIT Press.
- 3. Thought without laws
- 8. The green grass growing all around: A philosophical essay on ethology and individualism in psychology, part 2 ←いまここ
- 前章のまとめと本章の主張
- 生物を入力出力装置とみたとき、有機体の研究にとって重要な出力は、生物学的機能を持つ出力である(このような出力が「行動」である)。
- このような機能は(定義により)環境を媒介として遂行される。そのため、行動は有機体の環境との関連の中で記述されなければならず、この環境は近位のものにも遠位のものにもなりうる。
- 同様に、重要な入力とは、有機体がその入力を使うよう設計されている入力だ。
- 知覚的入力と出力を媒介するメカニズムが行動をいかにして生み出すかを理解するには、そのメカニズム自体と環境との通常の(”N”ormal)関係を理解しなければならない。
1. 出力の機能形式を説明する
- 機能形式に訴える説明の特徴(デネットへの同意点)
- 同じ動物が、何を入力・出力・状態記述……と見るかによって、同時に異なったチューリングマシンになりうる。動物が実際のところどのチューリングマシンであるかは、純粋に構造的な根拠からは決定できず、目的や設計という観点を持ち出さなければならない。そこで、同一の物理的システムが同一の行動をするとは限らないことになる。
- デネットへの反対点
- デネットは、動物の運動の物理的説明からは、その動物が何をやっているか(行動)は分からないと述べており、この点は賛同できる。
- だがさらにデネットは、運動の説明と行動の説明は同じ出来事の異なる記述の仕方(外延的記述 vs. 内包的記述)であると述べ、さらに、行動の記述は志向性の観点から行われると述べている。
- ミリカンは、二種類の説明の違いがこのようなものだとは考えない。機械には様々な入力と出力のパターンがある。このうち、どれが設計によってもたらされているのかに注目するのが、機能に訴える説明である。機械に「解釈」を加えるとか、機械的なものの他に別のレベルを設けるとかする必要はない。機能に訴える説明は、(必ずしも)志向的状態とは関係していない。
2. なぜコンピュータは行動を示さないか
- 動物を計算機と類比させるのには限界もある。
- 計算機の出力は、環境を媒介にすることで遂行されるような機能を持っていない。つまり、計算機は行動しない。
- 世界の状態の写像となることで、様々な固有機能を遂行させるような状態のことを「志向的状態」と呼ぶ〔。これが、環境を媒介した機能の遂行を可能にするものだ〕。だが、計算機がその機能を適切に遂行するにあたって、写像しなくてはならない外的現実など存在していない。
- またそもそも計算機には、外界の変化をもたらすための固有機能はない。
- 計算機の出力は、環境を媒介にすることで遂行されるような機能を持っていない。つまり、計算機は行動しない。
3. 行動の一構成要素としての環境
- 生物の運動を全て予測・説明できるだけの人がいるとする。この人は、「歩行」という現象をどのように理解するだろうか。
- この人はたとえば、ムカデの各々の足が精確にどのタイミングでどのように動くかが分かる。だがこの人には、各々の足の個々の動きが、なぜこのように協調しているのかには気づかないし、気づいてもそれを不思議に思わない。
- 多くの計算を重ねれば、「ムカデの体全体が突如として一定方向にうごきだすこと」に気づくかもしれない。だがこのことに気づいても動物行動学者としての仕事は明らかに果たせていない
- この人はたとえば、ムカデの各々の足が精確にどのタイミングでどのように動くかが分かる。だがこの人には、各々の足の個々の動きが、なぜこのように協調しているのかには気づかないし、気づいてもそれを不思議に思わない。
- 動物行動学者は、運動を機能形式のもとで理解しなければならない。そしてその機能形式は、それが遂行される環境との関係で理解されねばならない。
- ムカデの歩行を説明するためには、それがムカデの体全体を前進させるという機能を考慮せねばならない。そのためには、ムカデの求心神経に対する刺激のみならず、ムカデが歩行する表面の特性をも考慮しなければならない。
4. 有機体/環境の区別の不適切性について
- 有機体システムの空間的範囲が、有機体の皮膚ないし骨によって定められていると考えるのは大きな誤りである。有機体システムにとって、有機体それ自体はシステムの半分にすぎない。有機体システムは、有機体と環境のあいだの固有かつ通常の相互作用を構成するものによって、定義される。
- 通常引かれているような有機体と環境の境界線は、有機体システムの研究には役に立たない。この区別は、蟹の甲羅と鳥の巣を比較しているうちははっきりしていると思われるかもしれないが、蛾の繭、蛾のミノ、ヤドカリの貝などついて考え出すと全くはっきりしなくなる。
- 鳥は自らの固有機能を遂行するのに巣を必要とするが、これは皮膚や羽や食べ物を必要とするのと全く同じことである。これらは全て、同じ有機体システムを構成している。逆に、免疫系は、鳥の体の中にあるが生物学的システムの一部ではないものと戦っている。体の「中」・「外」という空間的区別は、鳥の生物学的システムの研究にとっては重要ではない。
- 有機体そのものとその通常の環境のあいだに何か興味深い線が引けるとすると、それは、程度問題になるが、次のようなものだ。
- 比較的有機体内部にある部位については、その多くの固有機能の通常の条件は、他の部位(ないしシステム全体)の固有機能により維持されている。だが周辺部については、その多くの固有機能の通常の条件は、システムの制御下にない。
- とはいえ、システムによって制御されていないものがシステムの外にあるわけではない。鳥が飛行や呼吸のために必要とする空気、食べるために必要な木の実などが破壊されることは、鳥システムの破壊を構成す(鳥システムの破壊に他ならない)のであり、鳥システムの破壊を引き起こすのではない。
- 動物行動学は、固有に機能しているかぎりでの有機体-環境相互作用システム全体のメカズムを研究するのである。
5. 行動の研究は有機体-環境システムの研究である
- 前章では、「行動」とは有機体の部位の外的変化の機能形式であると定義した。だが、有機体とその環境の区別を取り去った今、身体部位ではないものの変化も身体部位の変化と同じように扱われなければならない。行動とは、有機体にかかわるプロセスをもっとも広くとったときの、その機能形式である。
- ビーバーにおける行動とは、筋肉を動かしたり木をおいたりすることだけではない。ダムを建設すること、ため池をつくることも行動である。
- 〔アウトプットだけでなくインプットの側面、たとえば〕ビーバーが特定の水音に対して反応することもまた、動物行動学者の興味の対象になる。だがそれは、あくまでその反応がビーバーのダム作り行動に寄与するからだ。
- 以上の原則は、人間の行動学にも当てはまる。人間の場合、入力と出力を媒介する状態が身体内部にあり(3−6章)、それが複雑かつ柔軟な行動を制御している(5章)。これが内的表象である。人間の行動学の中でも、内的表象が行動を制御するというシステムをあつかうのが、「認知心理学」と呼ばれる。
- 認知心理学はあくまで、認知メカニズムの通常のはたらきを解明する。
6. 行動の内的メカニズム:欲求と信念
- ここでは行動に直接的に関連する「指令的」な内的表象を扱う。指令的表象の働きは、己が表象している目標の実現するよう有機体を導くことである。
- 欲求も指令的表象であり、その固有機能は自らの充足を助けることにある。ところでフォーダーは、「欲求は通常は充足される」ということが意味をなすような「通常」という語の意味は不明であると言う。しかしそんなことはない。
- 様々な欲求は、資源をめぐって互いに競りあい、勝ったものが目的になり、そして後には意図となるものだと考えられる。ところで、目的の表象の機能は、その目的の充足へ向けて有機体を導くことである。そうすると、欲求のひとつの固有機能もまた、己の充足へ向けて有機体を導くことだと言える。
- 欲求は実現不可能な矛盾した内容をもちうる。するとこの欲求は、己の充足を助けることを固有機能としつつ、しかしその充足は不可能である。これはおかしいと思われるかもしれないが、次の例と類比的な事態であり、おかしなことではない。
- 構造Aをもつ建物の設計図があるとする。この設計図の機能は、「建築家に構造Aの建物を建てさせること」というよりはむしろ、「建築家に、ある投影規則に従って、この設計図に沿った建物を建てさせること」だと言える。ここで、実現不可能な構造をもつ建物の設計図があるとする。建築家は、この設計図の機能に従い、それに沿った建物を建てようとするが、建てることが出来ない。
- また欲求の充足は有機体を害することがある。これも、欲求は己の充足を助けることを固有機能とするという見解と不両立にみえるかもしれない。だがそうではない。
- 蜂ないし環境が通常ではない場合、その蜂の八の字ダンスに従った仲間は何もない場所や罠がある場所にたどり着くかもしれない。だがそのことは、八の字ダンスがその場所への移動を命じていることとは無関係である。
- なお同様に、真の信念を持つことで生命に危険が及ぶということがあり得るが、かといって信念固定メカニズムの固有機能が真なる信念を固定することではないということにはならない。
7. 行動学的科学としての志向的心理学
- 志向的行為の本質は、指示的表象の機能を、通常の仕方で、実現していることである。ただし、全ての行動が志向的行為な訳ではない。指示的表象によって導かれていない行動もあるからだ(反射など)。
- 行動を説明するには、身体の運動と環境の特徴がどのように機能的に協調しているのかを説明する必要がある。とくに志向的行為の場合、その説明の中では内的表象のメカニズムへの訴えが大きな役割を果たす。
- 心理学の仕事は、人間の動きを予測することではない。人間の行動システムが、その機能を果たすための通常の条件下で、どのように作用するか、またそうしたシステムがどのように発達するか、なのである。