http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1111/j.1467-9280.1990.tb00210.x
- Maggie Schiffrar and Jennifer J. Freyd (1990). Apparent Motion of the Human Body. Psychological Science, 1(4): 257−264.
形の異なる2つの対象を素早く連続提示すると、対象の形が連続的に変化するように知覚される(仮現運動)。この運動は、最初に提示される対象の形と後に提示される対象の形を最短距離でつなぐような変化であり、このことは対象がどんな形をしていてもあてはまるとこれまで考えられてきた。しかし様々な運動の中でもバイオロジカルモーションについて考えてみると、これは検出が重要であると同時に、最短距離を通過するような動きではない。そこで、提示する対象が身体の部分である場合には、「仮現運動は最短距離を通る」という制約は当てはまらないのではないか。またこれまでの研究から、最短距離制約は2対象の提示の間隔が短い場合にはあてはまるが、長くなると仮現運動は別のより「高次」の制約に従うことも分かっている。
そこで実験1では、刺激として腕や脚の位置が異なる人体写真を用い、また二枚の提示間隔を様々に変化させた。被験者に与えられる解答用紙には「A 最短距離」および「B 解剖学上自然な動き」が図示されており、被験者は「A」「B」「AかつB」「その他」を回答として選ぶことができる。すると、たしかに提示間隔が短い場合には「A 最短距離」が選択されやすかったが、提示間隔が約400msを超えると「B 解剖学上自然な動き」の方が選択されるようになる。つまり、十分な時間が与えられると腕や脚の間接の制約に従った運動が知覚されるようになった。
しかしこの結果は、とくに対象が身体だったから生じたものではなく、たんに十分な時間があると長い経路が選ばれる、と一般的に説明することもできるかもしれない。そこで対象特異性をテストすべく、実験2では腕や脚と同じように関節を持つ時計の針の写真などを刺激として用いた。その結果、ここでは提示間隔が短くても長くても最短距離の運動が知覚されやすいことがわかった。
以上の実験から、十分な時間を与えられたときに視覚システムが生み出す仮現運動は対象の構造的制約に従う、という仮説が支持された。視覚システムは対象特異的な知識にある程度アクセスできるようだ。