えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

心理学の数学化:ライプニッツからヘルバルトへ Leary (1980)

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/1520-6696(198004)16:2%3C150::AID-JHBS2300160206%3E3.0.CO;2-1/abstract

  • Leary, D. (1980). The historical foundation of Herbart's mathematization of psychology. Journal of the history of the behavioral sciences, 16(2): 150-163.

 心理学史では、ヘルバルトによる心理学の数学化はひとつの重要な事件とされており、これを可能にしたのはヘルバルトの独創であるとされることが多い。だがそれは誤りである。
 
 まず大きく見ると、ニュートン力学の勝利以降、各学問が数学化を目指すという動きがあった。これは人間にかんする学問でも同様で、確率による意思決定の説明、快や苦の測定、統計の使用など、様々なアイデアが提出され活発に議論されていた。ヘルバルト自身「数学は我々の時代を支配する学問である」と述べている。
 
 さらに個別的に見ると、ヘルバルトの数学的心理学を可能にしているのは次の四つのアイデアだといえる。

  • 強度:あらゆる表象には一定の強度(=内包量)がある
  • 連続性:表象の強度は互いに程度によって異なっており、全ての表象を一つの連続体上に配置できる
  • 変化:表象の強度は時間にしたがって(連続的に)変化する
  • 共変:一つの表象の強度の変化は他の表象の強度に影響する

 この四つのアイデアは全てライプニッツに見られるもので、それ以降ヴォルフ、そしてカントにも受け継がれた、ドイツの思想界では馴染みあるアイデアだった。ヘルバルトは、恐らく直接的にはカントからこれらのアイデアを吸収したのだろう。また、この4つアイデアが数学的心理学を可能にするという理解も、ライプニッツ、ヴィルフ、そしてカントにさえにあった。この点では、ヴォルフがヘルバルトに直接影響しているようだ。
 
 ただし、もちろん、ただアイデアをもつこととそれを実際に遂行することは別のことである。ヘルバルトが実際に数学的心理学を展開してみせたことが歴史的に見て大きな出来事であることは間違いない。