http://cdp.sagepub.com/content/14/6/331.short
- Kameda, T., Takezawa, M., and Hastie, R. (2005), Where do social norms come from? The example of communal Sharing. Current direction in psychological science, 14(6): 331−334.
狩猟採集社会では、採集で得られる資源よりも狩りで得られる資源のほうが非血縁者に共有されることがおおい。Kaplan and Hill (1985) は、資源獲得の不確定性に注目し、不確定性が多い資源を共有することは集団のリスクを軽減することになると論じた。
だが個人の適応度に注目する適応主義的観点から見ると、この説明では何故利己的な人物がはびこらないのかがわからない。そこでKameda, Takezawa, and Hastie (2003) は、進化ゲーム理論的なモデルを用い、資源獲得が不確実な場合に共同分配規範がどのような条件で発生するかを調べた。プレーヤーは、狩りに成功した場合に、(1)肉を共有する(2)私有を主張、あるいは失敗した場合に(i)肉の共有を求める(ii)成功した人の私有を認める、の戦略がとれる。肉を独占しようとした場合、闘争が巻き起こされるリスクがある。
成功\失敗 | (i)肉の共有を求める | (ii)成功した人の私有を認める |
(1)肉を共有する | 共同分配者 | 聖人 |
(2)私有を主張 | 利己主義者 | ブルジョア |
グループのサイズ、資源の価値、闘争のコストなどを様々に変化させた結果、共同分配者であることは非常にロバストにESSであることがわかった。
以上は生態学的な考察だが、人間の心に関連するアルゴリズムを持っていると考えられる。例えば、人は労働によってえたお金より思いがけず手に入ったお金を寄付することが多い。この現象は、努力なしで手に入るお金は価値が低いと説明されることが多いが、上の実験からは努力ではなく資源の不確実性が重要であると示唆される。実際質問紙調査と実験により、人は努力には関係なく思いがけないお金を寄付しやすいことがわかった(Kameda, Takezawa, Tindale, & Smith 2002)。
共同分配規範は不確実性にたいするバッファとしてはたらく。だがこうしたバッファへのどの程度アクセスできるかは人ごとに異なる。すると、ホワイトカラーに比べてアクセスが限られているブルーカラーの人々は、平等主義な分配を好むのではないか。平等主義と成果主義どちらを好むかを複数の大学の学生に尋ねたところ、社会的地位の低い大学において平等主義が好まれやすいことがわかった。
さまざまな社会規範は、個体の適応度最大化の関数として現れてきているのではないか。