えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

意識とメタ意識は乖離する Schooler (2002)

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1364661302019496

  • Schooler, J. W. (2002). Re-representing consciousness: dissociations between experience and meta-consciousness. TRENDS in Cognitive Science, 6(8): 339−344.
  • 意識はよく報告可能性と等値される。だが「意識」と「メタ意識」は乖離するため、「意識」の指標として自己報告を用いるのは危険な場合がある。
意識とメタ意識の乖離
  • 日常的例:読書中に上の空で別のことに思いふけっていたとハッと気づく。
    • 思いふけりの内容は確かに経験されていたが、思い耽っていたことに対する明示的な気づきは一時的に欠如していた。
非意識、意識、メタ意識の関係
  • 意識的および非意識的な認知活動は起きているあいだ不断に生じている。
  • 意識のモニタリングの大部分は非意識過程が行っているが、注意が経験内容の査定に明示的に向けられることが定期的にあり,このときメタ意識が生じる。メタ意識は意識の明示的な再表象を含み、この再表象において人は自分の心的状態を様々な仕方で特徴付ける。メタ意識は現在の経験と同時的に生じることも、過去の経験に対し回顧的に向けられることもある。
一時的乖離
  • 上の空状態
    • Schooler et al. (2004) では、被験者はテキストを45分読み、上の空だったとハッとするたびに報告する。報告のたび、上の空状態にある最中にその事に気づいていたかどうか尋ねられる。また別群の被験者では更に、上の空になっていないかと時折探りを入れられる。
    • 結果:1試行中、平均5.4回はハッとする。1試行で探りは平均6回入れられるが、そのうち1.6回でハッとする。ハッとした場合の67%で、上の空中にはそのことに気づいていなかったと報告される。
  • 情動の気づき
    • 気分や情動経験は指摘されるまで気づきにくい。Schooler et al. (2003) は、快いかどうか曖昧な音楽(『春の祭典』)を被験者に聴かせ、快さを常時報告させる条件を用意した。するとこの条件では、教示なし条件に比べ観賞後の幸福感が大きく低下した。常時のモニタリングが経験を変質させたものと考えられ、逆に教示なしの被験者は、自分の情動的状態をよくて間欠的にしかメタ意識していないことを示唆する。
  • 夜間の認知
    • メタ意識は夢の場合妨げられるようにみえる。夢の奇妙さの認識できなさはこのことで説明できる。
  • 自動性
    • 自動的行動はよく非意識的とされる。だが自動的行動はあるレベルでは意識されており、メタ意識との乖離として捉える方が適切である。
  • その他
    • メタ意識の完全な欠如は、変性意識状態への移行の前提かもしれない。
    • 薬物によってメタ意識を増加・減少できるように思われる。
    • 覚醒している時間の大部分で、メタ意識はおおよそ欠如している。
翻訳的乖離:メタ意識による意識の誤表象
  • 言語的反省の効果
    • 顔写真の記憶を言語化すると、その後の再認課題での成績が落ちる(Schooler & Engsttler-Schooler 1990)。類似の効果は、問題解決課題、感情的判断、類似性判断などでも見られる。
    • 言語化は経験の処理をより反省的にする。全体論的な処理に干渉しやすく、特性に着目した処理を推奨した場合と似た効果をもたらす。
  • 曖昧な経験
    • メタ意識は経験の曖昧・精妙な側面にはあまり可感的ではないようだ。『春の祭典』の場合、どの時点でもその快さを認識するのは難しいため、最終的に楽しくなかったと結論される。また閾下プライミングは行動には影響するが自己報告には影響しない(Strahan et al. 2002)。
  • その他
    • 不安障害に見られるストレスの生理指標と報告の乖離や、人間の自己欺瞞能力も、メタ認知の失敗の産物かもしれない
    • 翻訳的乖離が適応的な場合もある。
警告と結論
  • 以上の現象のいくつかには別の説明もあるが、メタ意識の導入は少なくとも真の対抗説明を与えてはいる。
  • 子供や動物は、経験はするが経験を再表象する能力はないのかもしれない。
  • 自己報告(メタ意識に対応)は注意深く取り扱わねばならない