えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

リプライ;中毒のさらなる科学的解明の課題 Montague (2014)

Moral Psychology: Free Will and Moral Responsibility (A Bradford Book)

Moral Psychology: Free Will and Moral Responsibility (A Bradford Book)

  • Sinnott-Armstrong, W. ed. (2014) Moral Psychology
  • 二人のコメンテーターは、薬物中毒に関していまだ計算論的原理が不明だが重要な点を指摘してくれた。

Yaffeへの応答

  • Yaffeは、行為の制御が責任帰属と無関係だと論じた。
  • 〔※無関係、とはたぶん言っていない。〕
  • 行為にはその行為者ごとに異なる(内的な)ハードル(/利益)があり、責任帰属に重要なのはこのハードルの方である。
    • ここには科学的に言って難しい点が2つある。

(1)どうやってこのハードルを測定するか

  • 中毒の場合、内的な渇望感を測定できればよいのかもしれない。これはできそうではある。
  • しかし、今のところ渇望感の測定には意識的報告を用いるしかないという限界がある

(2)ハードルと制御の関係問題

  • Yaffeは、ハードルの存在は行為の制御とは無関係だとも主張している。
    • 「他の人にはないハードルを規範順守に加えるような条件が、行為者が行為に対して持つ制御を何か文字どおりの意味で制限するということはない。行為者には悪行に加担するのではなくハードルを飛び越えることが可能である」
  • しかしこれは、ハードルと可能な行為の間の関係がもっと明確になった場合には尤もらしくなくなるかもしれない。
    • 全く同一のハードル空間を持つが、行為空間へのマッピングの仕方が違うS1とS2がいる、ということが可能だとしよう。そしてハードルに結び付けられたS2の行為は、そのすべてが規範に違反しているとする。すると、ハードルだけが道徳的評価にとって重要ならば、〔同じハードルを持つS1の無害な行為とS2の有害な行為が等しく評価されるという〕問題が生じる。
  • ハードルに加え、それらの行為へのおよびマッピングの仕方も重要だとすればこの問題は解ける。
    • その場合には、マッピング〔の個体差〕は生物学的に当然予想される変異によるものなのか、それとも人生における意識的選択の帰結によって生じてきたのか、といったさらなる問いが生まれてくるだろう。

Sripadaへの応答

  • スリパダの4つのアイデアのなかでも、アイデア(1)は多くの研究に影響を与えている。
    • 〔というのは〕中毒者は目前の薬物経験と未来の利益を含むほとんどすべてを引き換えにしている〔からだ〕。
    • そしてこの傾向は時間割引をめぐる研究の蓄積によって概念化されている。その背後には、中毒者には感情予測・反実仮想に問題があるというアイデアがある。
  • 従って(1)のアイデアはこの感情予測の問題という〔既存の〕アイデアとのふつう切り離しが難しく、薬物中毒に関して何か新しい生物学的洞察を与えてくれるものと見るのは難しいだろう。
    • むしろこれらは、人がどの程度・どの次元で予測に困難を持つかをパラメータ化するのに役立つ枠組みだ。
  • 〔一方で〕累積的失敗というアイデアは、中毒者による欲求の制御失敗という問題を新しく捉えなおすのに役立つだろう。
  • 総じて、我々は人間の衝動およびその多様性や行為へのマッピングに無知であり、スリパダはこのことを浮き彫りにしてくれた。また、衝動は文化の影響を被るという深い問題も残っている。