- 作者: ダンテ・アリギエリ,原基晶
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/06/11
- メディア: 文庫
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- ダンテ・アリギエリ 『神曲 地獄篇』 (原基晶訳 講談社)
地獄だん
各方面で話題の『神曲』の新訳をようやく手に入れたので、週末を利用して「地獄篇」に挑戦しました。たいへん読みやすい翻訳で、ダンテたちとおなじ1日で地獄を抜けだすことができました。
地獄の描写、特に個人的にはマレブランケたちと共に地獄をゆく(往年のFF IVのファンには感慨深い場面ですね・・・)あたりは臨場感たっぷりで、これはダンテ殺されるのではないかとハラハラしながら読むことができ、古典中の古典がこんなに楽しく読めてしまっていいのかとかえって疑問に思うばかりです。
このリーダビリティの高さは、ときには俗語も大胆に今日の読者に近づきやすい翻訳の力によるのはもちろんですが、豊富な注釈(読みやすい側注です)、とくに往時のフィレンツェの人物や政情にかんする情報がなければ、いくつかの歌は私のような素人にはほとんど意味不明になっていたはずです。
また、巻末にある各歌ごとの解説も嬉しい。数歌ごとに巻末解説をいったりきたりすることで、疑問点を解消しつつ話を整理し、ストレスなく読み進むことができました。例えば、第二十六歌にはオデュッセウスが出てくるのですが、ここで語られる彼の旅程はホメロスのものと全く異なっており、「こんなのオデュッセウスじゃない!!?!??」と混乱するところを、すかさず解説を読むと「当時はホメロスの原文がなかった」とわかって一件落着、といった次第です。
もちろん、このように本文や解説はすばらしいものではあるものの、やはり一読ではこの一冊に秘められた深い哲学的・歴史的含蓄を味わい尽くすことは到底できません。それは再読やさらなる読書に委ねられており、そして実際その意欲を大いに掻き立てられもしました。
というわけでその手の勉強はおいおいしたいのですが、一読した感想としてここに記しておきたいのは、ウェルギリウスがね、かっこいいんですよ。
ウェルギリウスは理性の象徴でダンテを地獄で導いてくれるんですが、地獄のものどもにやけに話を聞きたがったり同情的だったりするダンテを、時に諌めつつもあたりに気を配りながら見守り、おそろしい景色をまえにたじろぐダンテを励まし、難所とあれば彼をさがらせて自ら悪魔たちと交渉にあたり、とおもいきや時折人間的な部分もかいまみせ、そして何よりダンテの身をかき抱いて力強く地獄の厳しい崖を下っていくそのさまは、なにかできの悪い後輩を見守るかっこいい先輩を思い起こさせます。「ルックスもイケメンだ」。こうやって700年も前の登場人物にいちいちかっこいいだとかなんとか感情を込めながら読めるというのは、まさに親しみやすい訳文のなせるわざというべきでしょう。
というわけで、地獄の悲痛な光景や緊張感ある悪魔たちとの出会いの描写はもちろん、ウェルギリウスにもドキドキの地獄めぐりでした(吊り橋効果・・・?)。つづく煉獄篇でもダンテとウェルギリウスの旅は続くようですから二人の関係から目が離せませんね!?