えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

コメント:どうしてなぜ中毒者は欲求を抑制できないのか Sripada (2014)

Moral Psychology: Free Will and Moral Responsibility (A Bradford Book)

Moral Psychology: Free Will and Moral Responsibility (A Bradford Book)

  • Sinnott-Armstrong, W. ed. (2014) Moral Psychology
  • 中毒には二つの病理が関係している。
    • (I)強さや持続性の点で過剰な欲求
    • (II)反省的判断が強い欲求を抑制できない

モンタギューの中毒におけるドーパミン信号機能不全研究

  • モンタギューらによると、ドーパミンは報酬系に対して、現在の状態が「期待よりも良い」ことを教え、その状態に対する価値付けが高まる。
    • 中毒の場合、〔ドーパミンの過剰放出により〕、薬物摂取への過剰評価がおこる。
  • この説明は第一要因に関わっているようだ。
    • では第二要因に関してはどうか? 4つのモデルを考えてみる

(1)抵抗できない衝動モデル

  • ドーパミン信号の異状によって生じた薬物摂取への欲求は文字どおり抵抗できない
    • こうした見解はすでに随所で批判を受けてきた(Husak, 1992)。例えば・・・
      • 深刻な中毒患者でさえ、多くの時間は実際に欲求に抵抗できている
      • 食べ物やゲームなどの自然な報酬がもたらす内因的なドーパミン放出は、しばしばその強さの点で薬物乱用がもたらす外因的なそれに比する(Koepp et al., 1998)。ほとんどの場合自然な報酬への欲求は抵抗可能なのだから、薬物への欲求だけが抵抗できないと考えるのは賢明ではない
  • なおこのモデルが正しいとしても責任との関係は簡単なものではない。
    • 同じ薬物中毒者でも摂取に乗り気な人とそうでない人はその責任が違うだろうからだ(Frankfurt, 2003)

(2)抵抗難しすぎモデル

  • 今日の心理学研究では、制御には有限の資源が用いられているというモデルが支持されている。様々な活動や衝動との戦いで資源が減り、ある点以降ではこの衝動を制御できなくなってしまう。
    • 衝動との戦いによる資源の消耗は、薬物摂取抑制の「ハードル」を上げており、このことを道徳的責任減免の根拠とすることができる(Yaffe 2014)。

(3)認知的制限モデル

  • 中毒者は、信念にバイアスがかかっていたり、未来の予測がゆがんでいたるために、欲求を抑制できない
  • たとえば中毒者は時間割引曲線のこう配が急である(Bickel & Marsch 2001)。
    • Yaffeは免責の考慮事項となる「規範的能力」を善悪に関する知識だと考えていた。しかしここに、自分が何を根拠に、何をしており、その結果何がおこるのか、などの事実的な知識を入れるのは尤もらしいだろう。

(4)累積的失敗モデル

  • 欲求に対する反省的判断と、それに続く制御戦略の採用という二段階のプロセスjRがある。
  • このプロセスが一切失敗しないものになっているとは考え難い
    • たとえば、0.001%で失敗が起こるものとしよう
    • これは、ある欲求はよくないと真摯に判断しそれを抑制しようと本気で試みるが失敗する確率である。
    • このとき、普通の人が2日に1回スナックを食べたいという(いけない)欲求にかられたとすると、制御に失敗するのは五年に一度である
    • しかし、一日に6回薬への欲求を感じる中毒者の場合、制御の失敗は一年に2回も起こるという計算になる。
      • 実際、アルコール中毒者に関して、反復的で一日中心を占拠するような思考や衝動があることがわかっている(Schmidt, Helten & Soyka 2012)。
  • このようにして制御の失敗が生じるとき、中毒者に道徳的責任がないことは明らかだと思われる。
  • このモデルは行為者性にかかわる欠陥が何もないが、第二の病理がなぜ生じてくるのかを十分に説明できる

結論

  • 第二要因を説明するモデルを4つ提出した。それぞれのモデルは、中毒者の道徳的責任軽減に関して異なる基盤を示唆している。