えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

『数学原理』の原子論的多元論 西村 (2014)

http://www.chisen.co.jp/book/book_shosai/2014/918-1.html

  • 西村敦 (2014).「ラッセルの『数学の原理』における命題論とイギリス観念論」,『哲学』, 65. 257-271

  「ラッセルの『数学原理』(1903)は命題に現れうる全ての項が存在するとしており、矛盾対象の存在を認めるマイノング主義を表明している。ラッセルは後にこのなんでもありの存在論を何とかすべく、「表示について」(1905) で確定記述の理論を展開して存在者の数を減らした。」--なるストーリーがまことしやかに語られています。この論文は、『数学原理』でラッセルが「項」の例として挙げるものは日常的な存在者ばかり矛盾対象は入っていない事を指摘し、『数学原理』の存在論は実際はマイノング主義的ではないのではないか、と論じます。では『数学原理』の存在論のポイントは何処にあったかというと、それは様々な項がそれぞれ独立に存在するという原子論的な多元論で、これは当時のイギリス観念論の強烈な一元論に反対するものでした。

  ところでこの原子論的な多元主義は、「命題は単に要素を集めたものではない」という考え方と折り合いがよくありません。そこでラッセルは、命題の中に項としても項で無いものとしても現れることのできる「コンセプト」なるものを認めます(形容詞と動詞に対応:項として現れるのが「ソクラテスは人間性をもつ」。項ではないものとして現れるのが「ソクラテスは人間である」)。コンセプトは項として命題の中に現れることができる(=存在する)ものの、しかし項ではない現れ方をすることによって命題中の他の項をくっつけて命題を統一させるという役割を担うことができます。