えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

「シンメトリア」:コペルニクス宇宙の芸術 平岡 (2010)

ミクロコスモス 初期近代精神史研究 第1集

ミクロコスモス 初期近代精神史研究 第1集

  • 平岡隆二 (2010) 「画家コペルニクスと「宇宙のシンメトリア」」 平井浩編『ミクロコスモス:初期近代精神史研究』 (月曜社)

  コペルニクスが絵画をたしなんでいたことは、オリジナルが残っていないこともありあまり知られていません。しかしストラスブルグ大聖堂には自画像の模写がありますし、弟子レティクスの散文、またガッサンディによる伝記からも、コペルニクスに絵心があった事がたしかに知られます。ガッサンディによればコペルニクスは数学的興味から絵画に向かっていたようです。
  こうしたコペルニクスの芸術への通暁は、実は宇宙論中のある重要な概念と密接な繋がりを持っていました。その概念とは「シンメトリア」です。プトレマイオスの体系は予測には優れていたものの、天球の大きさや順番を任意に変えることが可能なものでした。コペルニクスはこの寄せ集め感を捉えて「怪物」と批判し、一方で自分の宇宙が、地球の年周天球を1としたうえで、その他の惑星天球の大きさを比の形で導出できるという点を重要視しました。このように、諸惑星天球が共通尺度に対して比例関係を持つ事を指して、コペルニクスは「宇宙のシンメトリア」と言ったのです。「各惑星モデルが密接に結びついている」という点は、「太陽中心」という点に隠されがちですが、彼の宇宙の重要な特徴です(クーンはこの特徴について論じましたが、「シンメトリア」という言葉との関連には気づきませんでした)。
  そしてこの「シンメトリア」というのは、ルネサンス芸術が美を語る際に最も重要視された言葉でもありました。当時の芸術理論に圧倒的影響を与えたウィトルリウスの『建築十書』は、この言葉にまさしく「共通尺度との相対的な比」という定義を与えています。さらに、ウィトルリウスはシンメトリアを特に守らなければいけない芸術として神殿をあげるのですが、コペルニクスも自らの宇宙を「最も美しい神殿」と形容していたのです。その他にもいくつかレトリック上の類似点が見当たります。
  太陽中心説をコペルニクスの「審美観」と結びつけた研究は多いものの、その審美観を同時代の美術理論と結びつけるものはほとんどありませんでした。このような研究はさらに押し進められるべきでしょう。