えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

コスモスと自然魔術 プリンチペ (2011) [2014]

科学革命 (サイエンス・パレット)

科学革命 (サイエンス・パレット)

  • プリンチペ・L (2011)[2014] 『科学革命』 (丸善出版)

第二章 結ばれた世界

  初期近代の思想家は、世界を「コスモス」、すなわち様々な構成要素が目的と意味に従い互いに結びつけられたものと見ていました。この考え方の源泉の一つには、一者を頂点とする位階制、「自然の階梯」という新プラトン主義的な考え方があります。ルネサンス期にはヘルメス・トリスメギストゥスも翻訳され、その新プラトン主義的性格が注目されました。また関連したプラトン由来の概念として、天文学的世界と人間の体は類似した原理で構成されているという「マクロコスモス」「ミクロコスモス」の概念も広く行き渡っていました。特に両者の連結は医療占星術の基盤となり、惑星が人間の器官に効果を及ぼすとされました。
  さらに、あるものを他のものとのネットワークの中で説明するアリストテレスの4原因説も、とりわけその目的因という考え方がキリスト教とよく調和したこともあり、結ばれた世界という見方に貢献しました。

  以上のような世界観と密接な結びつきを持つ自然哲学の一面に「自然魔術」があります。中世のアリストテレス主義者によれば、事物の性質には熱、色、味、音など感覚により誰でも気づける「明白な性質」と、そうではない「隠された性質」があります。磁力や太陽とヒマワリのあいだの引力、アヘンの催眠効果、月の潮汐への影響などです。こうした隠れた性質とその効果を探して理解し、それを応用するのが「自然魔術」でした。
  隠された性質を見つけるために、観察や自然観察記録の掘り起こしが促進されたほか、自然の中にその手がかりがあるとする「表徴説」が現れました。これは、例えばひまわりと太陽のように、二つの結ばれた対象は類似しているというもので、類似性が探求の出発点となったのです。
  なお離れた物体の間で作用を伝えるには何らかの媒体が必要であると、すでにアリストテレスから主張されていました。そこで、ミクロコスモスに動物精気があるようにマクロコスモスにも「世界精気」が充満しており、これが媒介となって諸事物は「共感」するのだとされました。この説は同時に、人間に霊魂があるように世界にも霊魂があるということをも意味していました。

  自然魔術は家事から儀式まで幅広く応用されました。例えばフィチーノは、メランコリー − 黒胆汁 – 土星の効果を打ち消すとされた太陽に関連する様々なものを生活の中に取り入れていました。彼が惑星のパワーを引き寄せる図像を利用した時、これは自然魔術ではなく霊的存在(ダイモーンや天使・悪魔)にはたらきかける「黒魔術」なのではないかと疑われ、神学者から非難されたりもしました。

  自然魔術に限らず、世界をコスモスと捉える理解は初期近代の自然哲学者に広く受け入れられた考え方でした。人間と神と自然界の間には密接な結びつきがあり、神学的真理と科学的真理の間には相互連関があったのです。この考えは、神は聖書と自然という「二つの書物」により人間の前に姿を現すというアウグスティヌスのころからの考え方にも後押しされていました。ボイルが科学的探求は神聖なものだから日曜にやるべきだと考えたように、自然哲学者は被造物を研究することで神についての知識を得ようとしたのです。