えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

制御過程から産出されるのは反直観的判断じゃなくてやっぱり功利主義的判断な件 Paxton et al. (2013)

http://scan.oxfordjournals.org/content/early/2013/08/23/scan.nst102.full

  • Paxton, J., Bruni, T. and Greene, J. (2013) Are 'counter-intuitive' deontological judgments really counter-intuitive? An empirical reply to Kahane et al. (2012).

  「功利主義的判断は制御過程で産出され、義務論的判断は自動過程で産出される」。このGreeneの有名な見解に対し、Kahane et al. (2012) は、問題なのは「功利主義的」か「義務論的」かという判断の内容ではなく、その判断が「反直観的」か「直観的」か、なのだと反論しました。
  しかしGreeneらはまず、反論の根拠としてカヘインらが行った実験はあまり良いものではないと批判します。

  • (1)どの判断が直観的なのかを決める際、カヘインは被験者に尋ねるという方法を使っている。この方法は素朴すぎて信頼できない。
  • (2)「功利主義的判断が直観的な課題」(UIジレンマ)に対しては、義務論的(反直観的)判断の方が功利主義的(反直観的)判断より反応時間が長いことをKahaneらは自説の証拠にする。しかし、UIジレンマと「義務論的判断が直観的な課題」(DIジレンマ)で比べた時、反直観的な義務論判断の方が直観的な義務論的判断より早い。
  • (3)UIジレンマに対する義務論的判断において、功利主義的判断と比較して、反直観的な道徳判断関連領域であるDLPFCの活動増加が観察されない。

  続いて実験です。直観的に答えると誤問する問題からなる「認知的反省テスト」(CRT; Frederik 2005)で正答すると、反省の価値が強化され、DIジレンマ状況で功利主義的判断が出やすくなることが既に知られています(Paxton et al. 2011)。このテストとUIジレンマを組み合わせた時、カヘインの仮説が正しければ、テストの正答によってUIジレンマに対する義務論的判断(反直観的判断)が増えるはずです。しかし実際は、(おそらく天井効果によって強烈には出ないものの)増えるのはやっぱり功利主義的判断なのです(実験1)。
  以上の2点でカヘインらの結論は疑わしいものだと言えるでしょう。