えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

経験科学によって道徳規範を発見する Prinz (2007)

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1475-4975.2007.00148.x/abstract

  • Prinz, J. (2007). Can moral obligations be empirically discovered? Midwest Studies in Philosophy, 29:271-291

  現代哲学に特徴的な経験的な方法を倫理にも適用しようという論文です。
  プリンツはまず、[悪い] という道徳概念の基盤には様々な道徳情動があることを2種類の経験的知見を引きながら示します。一つはGreene, Haidt, Blair らのお馴染の研究ですが、もう一つはプリンツによるよるデータで、人の道徳的価値を反映しているのは非難行動の方か情動の方か被験者に問い、情動の方だという答えを観察しています。
  続いて、様々な道徳感情によって構成される道徳概念が何を指示するかという問題が検討されます。様々な道徳感情が事物の全く異なる性質に反応していることを考えると、[悪い] 等の道徳概念は大変異種混交的なものに見える。この時採りうる選択肢としてプリンツは、
(1)悪さの本質は明らかでないだけで、頑張れば見つかる
(2)概念 [悪い] は指示に失敗している
(3)[悪い] は選言的概念である
(4)[悪い] は反応依存的性質を指示する
の4つを取り上げ、最後の選択肢を擁護します。すなわち、[悪い] とは「自責および他責の情動を引き起こすような性質」を指示するとプリンツは考えるのです。
  そうすると、自分が一人称的にある事柄に特定の感情をおぼえる事を証拠として、あるいは三人称的にある感情を喚起させる事柄を明らかにする事で、何が悪いことであるかの証拠を手にすることが出来ます。そしてここから、その事柄を行うべきではないという主張を引き出すことが出来るのです。

【まとめ】

  • P1: 概念[悪い] は情動によって構成される
  • P2: 情動は反応依存的性質を指示する
  • P3: あるタイプの行為Aによって、概念[悪い] を構成する情動が引き起こされる傾向にある人Pがいる
  • C1: 従って、Aする事はPにとって悪いことである
  • P4: 「xにとってFする事は悪いことである」は、「xはFしないようにすべきである」を含意する
  • C2: 従って、PはAしないようにすべきである

 最後にこの議論のもつ相対主義的側面・反超越的側面に対する反論が簡単に取り上げられています。