http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010027711001351
- Bartels, D. and Pizarro, D. (2011) The mismeasure of morals: Antisocial personality traits predict utilitarian responses to moral dilemmas. *Cognition*, 121: 154-161
近年、道徳心理学の研究を受けて、最善の道徳判断は功利主義的判断だと考える研究者が増えています。道徳心理学の研究では功利主義的判断が理性的熟慮と結びつけられ、義務論的判断は感情と結びつけられることが多いため、義務論的判断はエラーだと考えられるのです。この論文は功利主義的傾向と臨床的事例に関連する性格特性の結びつきを示すことで、こうした風潮を批判します。既に、VMPFCに損傷を受けサイコパスに見られるような情動障害をみせる被験者が功利主義的判断を行いやすいことは知られています。熟慮ではなく、危害を与えることに対する〔否定的〕情動が抑制されることでも、功利主義的判断は出てくるのです。
著者らは様々な道徳的ジレンマ状況に対する判断を問うおなじみの実験を行うのですが、その際被験者の「サイコパス的パーソナリティ」「マキャベリズム」「人生の無意味さの知覚」という3つの性格特性を測定します。するとどの特性に関しても、スコアが高いほど功利主義的な判断を行う相関が見いだされました。
ここから著者らは、ジレンマ的状況を用いて道徳的判断を研究するおなじみの方法には、情動の障害からくる功利主義的判断と功利主義的信念からくる功利主義的判断を区別できないという欠点があると主張します。この方法では「「正しい」道徳判断を最も行うだろう人は、一般的に道徳的だと知覚される性格特性を最も持たない人である」というおかしな結論に導かれてしまいます。また、感情の関与を「エラー」だとしてしまう傾向にも疑問が投げかけられるでしょう。「エラー」概念に頼らず、もっと精確な記述的理論を作ることを著者らは推奨しています(see also. Pizarro & Uhlmann 2005)。