えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

戦略信頼性主義(1):信頼性について Bishop & Trout (2005) 

Epistemology and the Psychology of Human Judgement

Epistemology and the Psychology of Human Judgement

  • Bishop,M. and Trout, J. (2005) *Epistemology and the psychology of human judgment* (Oxford University Press)

1. 手札を見せる
2. 統計的予測規則の驚くべき成功
3. 向上心理学から認識上の教訓を汲み取る
4. 戦略信頼性主義:ロバストな信頼性 ←いまここ
5. 戦略信頼性主義:卓越した判断のコストと利益
6. 戦略信頼性主義:認識的な重要性
7. 標準的な分析的認識論の問題点
8. 認識論を実践へ:心理学における規範性論争
9. 認識論を実践へ:積極的なアドバイス
10. 結論
補遺

・向上心理学の基礎にある認識の理論は、「戦略信頼性主義」である。

1 実信頼性スコア

・推論戦略は次の4つの観点から特徴づけられるものが多い。

【ゴールドベルグ規則】

  • (1)手掛かり:MMPIパーソナリティスケール(Pa, Sc, Hy, Pt)と、妥当性スケール(L)
  • (2)定式:(L + Pa + Sc) - (Hy + Pt) < 45 ならば、患者を神経症と診断せよ。さもなくば精神病と診断せよ。
  • (3)標的:神経症か、精神病か
  • (4)範囲:全ての精神疾患患者

 想定される「範囲」内で判断が真になる割合を、その推論戦略の「実信頼性スコア」と呼ぶ。ゴールドベルク規則の観察上の信頼性スコアは .7であり、サンプルの取り方が代表的ならば、この値は信頼性スコアの近似である。

【学行成功予測規則(ASPR)】
(1)手掛かり:学校のランク、試験の点数のランク
(2)定式:標的は、(学校ランク+テストランク)の正の関数である
(3)標的:大学での学業に成功する傾向性
(4)範囲:全て高校の進学志願者

・さらにこのような規則を考えよう。ところで、「範囲」は、規則の定式化に先立って検出可能な性質(例えば志願者の年齢や母語、地理的状況など)を基に分割する事が出来る(「識別的分割」)。
・こうして分割された諸範囲内で規則が一貫した信頼可能性を持たない場合、問題が生じる。例えば、ASPRは英語母語話者には70%、非母語話者には60%の信頼性を持つとすると、ASPRはどこの大学で使われるかで信頼性が変わってしまう(「環境の相違の問題」)。
・これにより、「ある規則の実信頼性スコアがいくつなのか」を明らかにするのが困難になる。ASPRの実信頼性スコアは全高校の志願者に適用された時のものでいいのか? あるいは、スコアは範囲毎に異なると考えるか?
・ここでは、「個々の推論戦略の使用」に実信頼性スコアを割り当てる考え方をとる。
・まず、推論規則がある環境においてもつ、使用者にとっての「期待範囲」という概念を導入する:「ある人の持つ、特定の推論戦略Rを適用する傾向性およびその人の環境を考えると、その人が直面しうる問題の分布は一定であると期待できる」
・期待範囲が精確にどのように定義されるかはケースによる。東部の有名で小規模な総合大学と、南部の大きな公立大学では、志望者の分布が違う。「期待範囲」が特定できれば、その環境における、特定の使用者にとっての、推論戦略の実信頼性への接近が可能になる。
・しかしこれでは、環境が偶然に素早く変化する場合に対応できない。そこで「ロバストに信頼可能な推論戦略」概念が重要になる。

2 ロバストな信頼性

・規則の信頼性のロバストさは、<一貫性:ある規則の持つ範囲の様々な分割を通して精確な予測を出すこと>と<スコープ:その範囲が広いこと>の問題である。認識論がロバストな推論戦略を勧めるべき理由は少なくとも3つある:(1)認識者/環境の変化に対して柔軟である(高い真理率を維持)&(2)実装しやすい(憶えることが少なくて済む)&(3)一般的に使える。
・ある推論戦略がロバストかどうかを評価するには、その戦略の適切な「範囲」の確定が必須である。例えば「再認ヒューリスティクスはロバストに信頼可能か?」というのは良い問いではない。適切な範囲が「都市サイズ問題」なら、スコープが狭すぎてロバストではないし、「投資戦略」なら、一貫性の点でロバストではないだろう('60-00年の間、複数の6か月期間(識別的分割)で成功していないので)。

3 実信頼性スコアの重要性

・「実信頼性スコア」は実践的にはあまりに役に立たない。応用認識論者にとって重要なのは、ある戦略が「他の戦略と相対的」にもつ信頼性スコアだからである。2つの戦略の「精確な」実信頼性スコアを知らずとも、圧倒的証拠があれば、一方が他方より信頼できると正当に信じる事は出来る。
・ただし過小評価すべきでもない。実信頼性スコアは認識論における理論的で観察不可能な措定物であり、少なくとも2つの役割を持つ。
(1)観察上のスコアは実スコアの近似だと想定されている。従って、観察上のスコアを明らかにしようとする時、我々は実スコアに導かれている(そうでなければ規則を多くの事例に照らしてテストする必要がない)。
(2)実スコアは、認識的判断の究極根拠(の一部)としての役割を果たす。ある規則が我々にとって最善の戦略である事の究極的な根拠は、その実スコアが他のものより優れているからである〔「究極」根拠は、「実際の」スコアであり、「観察上の」スコアではない〕。 

4 循環反論

・自然化された認識論に対するあるある反論は循環の指摘である。まず、経験的理論には認識的正当化が要るのであらゆる自然主義的理論は絶対に悪循環すると言う反論があるがこれは補遺2で扱う。
・次に、自然主義的理論の「適用」に循環を見る者がいる。我々は理論家としては、信頼性スコアやロバストさ、問題の難しさなどをアクセス可能性からは切り離して扱う。しかし実際戦略信頼性主義を実装するにあたっては、我々はやはり観察上の信頼性や証拠の質などに依拠せざるを得ない。
・しかしこれは悪循環ではないし、推論者にとって無益な認識論を作るのではない限り、認識的概念に基づく判断を排する事は出来ない(Stich 1990, pp. 145-149を見よ)。