えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

生物分類能力の生得性 ヨーン (2009) [2013]

自然を名づける―なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか

自然を名づける―なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか

  • 作者: キャロル・キサク・ヨーン,三中信宏,野中香方子
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2013/08/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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  • ヨーン, C. (2009) [2013] 『自然を名付ける』 (三中・野中訳 NTT出版)

第2章 若き預言者
第4章 底の底には何が見えるか
第6章 赤ちゃんと脳に損傷を負った人々の環世界 ←いまここ
第10章 数値による分類

・環世界センス〔直観的な生物分類能力〕では進化や種の変化といった科学的事実を理解する事が出来ない。著者はこういう誤った直観は放逐されるべきだと考えていました。ところが、認知心理学の研究を通じて環世界センスの重要性が明らかになってきます。
・1940年代ごろから、脳の損傷により生物を正常に認識する事が出来なくなったという症例が報告されるようになります(「生物カテゴリー特異性呼称障害」)。逆に、人工物の認識だけが損なわれているような症例も見出されました。人工物の理解に重要なのは機能ですが、生物の場合は見かけです。そこで科学者たちは、脳には生物の認識に特異的な領域があるのだと考え始めました。

・このような局在説は、1860年代ごろに流行した骨相学の時にはかなりあやしい代物でしたが、オーバーティンやブローカの先駆的貢献によってまともなものになっています。
・科学者たちははじめ関連する脳損傷は側頭葉にあると突き止めます。さらに脳画像研究が進んだ現在では、生物の識別と命名には上側頭溝と側部紡錘状回、無生物の認識には中側頭回と紡錘状回の中央が関与しているらしい事が明らかになっています。

・生物カテゴリー特異性呼称障害は、生物が分類できなくて不便ですねといったレベルではありません。その人にとっての世界は混とんとしたものになってしまい、場合によっては命に関わります。さらに、食べられるものと食べられないものの区別がつかくなったりもします。環世界センスは現実世界の重要な要素を知って生き延び、種として繁栄するために不可欠なのものなのです。
・このため、子供は生物に強い興味を示します。(恐竜やポケモンに対する強い関心はこれに由来するでしょう(イギリスの平均的8歳児はポケモンの約8割を識別できる〔!?〕))。さらに乳児は、生後三カ月で既に生き物の動きと機械的な動きを識別する事が出来ます。最初に習得する名詞の大部分も人間以外の動物に関わります。
・生物のカテゴリー的な理解も早いうちから可能です。ここにはプラトンの問題があるはずですが、幅広い生物を分類する能力が生得的であるためにこの問題は解かれているのです。
・環世界センスは我々を世界につなぎとめる碇です。