- 作者: 千住淳
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2012/03/01
- メディア: 単行本
- クリック: 25回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
- 千住淳 (2010) 『社会脳の発達』 (東京大学出版会)
第II部 赤ちゃんの脳、社会に挑む
第3章 他者の心を理解する
第4章 他者の動きを理解する ←いまここ
第5章 視線を理解するI
第6章 視線を理解するII
他者の行為を理解するためのメカニズムには、連合記憶や心の理論とならんで「目的論」や「シミュレーション」があります。
チブラとゲルゲイは、「個体の行動は、状況の制約の中で目的を達成する、最も合理的な、効率の良い動きとして生成される」という「目的‐状況‐行動」の三者に関わる理論で、ヒトは他者の行動を理解していると主張しました。これは、直接観察可能な項から推論を行える点で心の理論よりも容易に実現可能であり、経験によらないため連合学習より強力です。例えばCsibra et al 1999よると、実験群ではDよりCに対して乳児の注視時間が長いが、統制群ではそうならない。これは順化試行において乳児が動きの軌道ではなく動きの目的を学習したいるからだと考えられます。なお目標の表象には下頭頂回が選択的にかかわっているようです。
また、我々は推論(理論)を使わずともシミュレーションにより自分の過去の経験や知識から行為を理解できるという説もあります。実際、乳児は自分でも出来る行動の観察ではその目的をよく理解します(Sommerville, Woodward & Needham 2005)。この説には、自分と相手の動きを(学習により)マッチングするのは困難だという欠点があるのですが、脳の特定の部位では自分と相手の運動きの処理に重なりがある事が近年示されており、これがシミュレーションの神経基盤ではないかと考えられています。こうした脳部位の神経群はしばしばミラーニューロンと呼ばますが、実際のところこれらが何をマッチングしているのかは未だよく分からず、更なる研究が待たれます。
目的論は、ものの操作や道具使用など、手段より目的が重要な行動の学習に適しています。他方でシミュレーションは、目的が一見分からないような行動や、手段まで含めた模倣を行うのに適した方法だと言えるでしょう。