えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

赤ちゃんの心の理論 千住 (2012)

社会脳の発達

社会脳の発達

  • 千住淳 (2010) 『社会脳の発達』 (東京大学出版会)

第II部 赤ちゃんの脳、社会に挑む
第3章 他者の心を理解する ←いまここ
第4章 他者の動きを理解する
第5章 視線を理解するI
第6章 視線を理解するII

  発達心理学で誤信念課題を使った研究が進むと、4歳前後で50%、5歳過ぎまでに90%以上がこの課題を通過するとわかり、「3歳以下の子供は心の理論を持たない」と主張されるようになります。しかしここには飛躍があります。この課題に通過するには他の多くの認知能力が必要だからです。
  赤ちゃんは「予想しなかった事象を長く見る」という行動をみせます。Onishi & Baillargeon (2005) はこれを利用し、「実験者の視点から見ておもちゃが入っている箱<ではない>箱に実験者が手を入れる」という出来事に対する15カ月児の注視時間が長い事を見出しました。これは「15か月児でも心の理論を持つ」と示唆します。
  しかしこの行動は、「実験者がおもちゃに顔を向けること」と「そのおもちゃに手を伸ばすこと」の学習で説明できるという批判が出ました。そこで著者らは、同じ見た目の<本物の目隠し>と<見える目隠し>を18ヶ月の赤ちゃんに経験させた後、「登場人物がその目隠しをしている間におもちゃが箱から取り除かれる」というビデオを提示し、赤ちゃんの眼の動きをアイ・トラッカーで記録しました。すると、本物を経験した群では、おもちゃが取り除かれる前にあった場所への「予期的注視」がみられました。一方、偽物を経験した群では見られませんでした。登場人物はおもちゃは無いと知っている、と赤ちゃんが理解しているからです。この実験は18カ月児が誤信念を理解していることを支持します。この実験のように自分の視覚経験のみから「他の人も目隠しするとみえない」事を学習するには、目隠しが「見る」という心の状態に関連する事の理解が必要です。
  なお心の理論の処理に主にかかわる脳部位は前頭葉内側部、帯状回前部、上側頭溝、側頭頭頂接合部のようです。側頭頭頂接合部は6歳前後の子供では他者の身体的情報を処理する際にも活動しますが、10歳前後では心的状態の思考に特異的なものになり、成人では誤信念理解の際に特に強く活動するようになるようです。