えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

「アイ・コンタクト効果」と社会脳の発達 千住 (2010)

社会脳の発達

社会脳の発達

  • 千住淳 (2010) 『社会脳の発達』 (東京大学出版会)

第II部 赤ちゃんの脳、社会に挑む
第3章 他者の心を理解する
第4章 他者の動きを理解する 
第5章 視線を理解するI ←いまここ
第6章 視線を理解するII

  生後数日の新生児でさえ、周辺視野にある(※新生児は周辺の視力のほうが高い)顔図形と上下逆転図形を識別し前者を好む事が知られており(Mark Johnson et al, 1991)、この反応は明るい背景の上の黒い点という「目」特有の特徴に対して選択的に反応するメカニズムによって引き起こされる事がわかっています(Teresa Farroni et al, 2005) 。ジョンソンは、幼児においては網膜によって得られた情報が皮質下にある「上床‐視床枕‐扁桃体」経路を介して顔や目が素早く検出され、それに対する反応を制御しているという仮説を立てています。
  生後数時間から数日の新生児でも、自分に向けられた視線を好んで見るようです(Farroni et al, 2002)。さらに、自分に視線が向けられていると、その顔への注意や顔の記憶が促進され、相手の動きを自然に模倣する傾向が強くなったり向社会的行動が増す事が知られており、脳は視線を素早く検出して社会的な情報処理や行動を調整する働きを持っており、筆者はこのような影響を「アイ・コンタクト効果」と呼んでいます。
  筆者はアイ・コンタクト効果に関連する脳機能スキャン研究の結果を説明するため、「早い経路による制御 fast-track modulator」仮設を提案しています。これは、ジョンソンが考えるような皮質下の「早い経路」が、外側膝状体から一次視覚野を経由する「遅い」経路の処理に対してトップダウンの制御をかけるというものです。この仮説は社会脳の発達にも一定の含意を持ちます。皮質下の構造で社会的刺激が検出され、それらに注意を向けることで皮質が社会的な情報を学習する。その結果皮質が社会的情報処理に専門化し、皮質下の経路との連絡も効率化されることで、社会的な情報処理に専門化した脳部位のネットワークである社会脳が出来上がるというものです。