えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

概念的に軽い共同行為を目指して Butterfill (2011)

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1467-9213.2011.00005.x/abstract

  • Butterfill, S. (2011) "Joint action and development" *The Philosophical Quarterly* (62) pp. 23-47

共同行為と発達をめぐって、以下のようなテーゼが出されている。

  • (1)共同行為によって他人の心の理解がはぐくまれる(心理学者の主張)
  • (2)全ての共同行為は共有意図を含む(哲学者の主張)
  • (3)共有意図の機能は、2人以上の行為者の計画を調整することである(哲学者の主張)

しかし(2)と(3)が同時に正しければ、共同行為への参加は他人の心の理解を前提する事になるので、(1)と不整合になる。そこで筆者は、共同行為の指標として以下の6つを挙げたうえで、「共有目的」を含むが共有意図は含まない形式の共同行為を特徴づけることで、(2)を否定して(1)を守る。

【共同行為の指標】
1:共同行為の典型例に良くはまる
2:同じタイプの活動を同時並行的にやっているのとは異なる
3:個人的ではなく一緒に行為することは、制御されているという意味で意志的である
4:一つの目標に向かっている
5:複数形の主体をとって行為動詞で記述できる
6:関与者は、相手の出方に応じて目標達成に必要な形で自分の行為を変更する傾向をもつ。

  筆者の言う「共有目的」とは、個体の行動が「共通結果」に向けて組織されて行われる「複数的活動」(蟻とかでもできる)を調節することのみをその機能とし、交渉の構造化や計画の協調を機能としない点で「共有意図」とは異なる。「共通目的」の所有は次のような形で実装される。

【(a) 一つの目的、複数の行為者】
各々の行為者がぞれぞれ個人的に向かっている(向かうだろう)一つの目的Gがある
【(b) 同定】
各々の行為者は(目的やそれに向けた行為に関する知識とは独立に)互いを同定できる
【(c) 目的指向的行為への期待】
各々の行為者は、同定できた相手がその目的に向けて行為すると(対立する期待なしに)期待している。
【(d) 共通結果についての期待】
各々の行為者は、この目的に向けられた自分と相手の行為全ての共通結果として、この目的が達成されると(対立する期待なしに)期待している。

  (c)(d)は期待を含むが、発達研究では注視時間と目の動きによって幼児の目的に関する期待は測られている(ただしこの種の期待が信念などを含むのかは定かではない)。(c)で必要とされるのは、意図や命題的態度の表象なしで表象しうる目的指向的行為のみであり、概念的に軽い。このような目的に駆動された行為は上6つの指標をよく満たしており、共同行為だと言える。