えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

飛行機はどのように安全性を向上していったか 廣野 (2013)

サイエンティフィック・リテラシー 科学技術リスクを考える

サイエンティフィック・リテラシー 科学技術リスクを考える

  • 廣野喜幸 (2013) 『サイエンティフィック・リテラシー 科学技術リスクを考える』 (丸善出版)

第8章 商業定期旅客飛行便 pp. 105-124

  今日、商業定期旅客飛行便〔以下「旅客飛行便」〕のリスク対策は大きく成功しているとみなされています。どうしてこうなったのでしょうか。
  旅客飛行便は、欧米各国では20年頃、日本では28年に本格的運用が開始されますが、その1〜2年後にはすぐに死亡事故が起きます。以後、旅客飛行便は事故対策とともに歩んでいくことになります。
  1944年に国際民間航空機機構ICAOが発足し、50年以降には飛行機の安全性に関するデータが体系的に集められるようになりました。このデータを見てみると、年間死亡者数は1974年をピークに山を描き、今日では50年代当初の死亡者数に戻っているといった傾向が取り出せます。しかし、50年と08年では乗客数は700倍に増えています。つまり、輸送量の大幅な増加に対し、事故率を下げることで、死者の絶対数の増加を食い止めてきたのです。
  さらに事故率減少の仕方を見てみると、ある短期間に安全性が一気に高まる、といったことは読み取れません。事故の原因をもぐらたたき的に対策していく「漸進主義」によってこの減少は達成させられたのです。<再発防止を優先し、正確な情報を得ること>と<責任問題>を切り離すか否かという課題が紛糾し、事故調査をうまく制度化出来ない領野があるなか、ICAOはすでに51年には附属書13「航空機事故」で、調査の目的は責任の追求ではないと明記し、この課題に指針を与えることが出来ました。これがリスク対策成功の要因でしょう。
  責任追及を優先させた従来の調査は「単一の原因」、それも実質的には「犯人」を探すというものになりがちでした。しかしこれでは、マネジメントのような見えにくい原因を発見しがたく、再発構造が持ち越されてしまうという問題がありますし、諸事項の連鎖全体が原因であるところを、一人に責任を不適切に配分しかねません。さらに、正直に報告した人が懲役刑などに課され、嘘を突き通した人のほうが得をするという点にもおかしさがあります。再発防止・真相究明を優先させるシステムなら以上の問題点を避ける事ができます。
  「安全を脅かす原因・要因を一つひとつ解明し、それに対処していく。再発防止を重視し、特に過失の場合、真相解明を司法上の責任追及より優先する」。こうしたモデルを採用することで、旅客飛行便は模範的なリスク対策を実現してきたのです。



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