えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

ウェルビーイング療法と臨床 Ruini and Fava (2014)

Stability of Happiness: Theories and Evidence on Whether Happiness Can Change

Stability of Happiness: Theories and Evidence on Whether Happiness Can Change

  • Sheldon, K. M. & Lucas, R. E. (eds.) (2014). Stability of Happiness: Theories and Evidence on Whether Happiness Can Change. Oxford: Academic Press.
    • 8. Ruini, C. and Fava, G. A. “Increasing happiness by Well-Being Therapy”
  • ウェルビーイングは快楽主義的なものとエウダイモニア主義的なものに区別される(Ryan and Deci 2001)。後者の例としてRyffの心理的WB(PWB)がある。
    • とはいえ、どちらのWBも高い人は限られており、ここに心理社会的な介入の余地がある。本章はそうした介入に関する知見を分析し、次のことを示す。
      • 二つの視点は臨床事例において密接に関連し合っている。
      • 区別自体ではなく、治療によるWBの具体的な変化の方が重要。

臨床心理学における幸福とウェルビーイングの概念

  • 臨床心理学においてはエウダイモニア主義的見解が有力である。
    • 感情障害の患者の症状の程度とPWBのスコアがよく相関する(Fava et al. 2001)
    • PWBの欠如は、鬱のリスク要因である(Thunedborg, Black, and Bech 1995)
    • QOLの測定の方が、症状の評定よりも、鬱の再発を予測する(Fava, 1999)

介入による幸福の増強:より幸福なことは常によりよいことなのか?

  • ネガティヴからの脱却とポジティヴの回復は別物(Ryff and Singer 1996)。
    • 長いあいだ、後者は前者の副作用にすぎないものか、臨床的介入によって実現することができないものだとされてきた。
    • だがポジティヴなものを回復させるような介入は80年代頃から現れ始め、今日では多様な研究が行われている。近年のメタ分析によると……(Bolier et al. 2013)
  • これらの介入は〔快楽主義的な〕主観的WBとPWBの双方を有意に増強している(効果量は中程度ではあるが)。
        • 多くの介入は、基本的に自分1人で行ない時々対面での教示と支援が与えられるというもの(26/39)で、対象となる人々も多様である。
          • →ポジティヴなものとネガティヴなものの「バランス」や、個々の臨床事例の複雑さを軽視か(Rafanelli et al., 2000)。
  • こうしたポジティヴ介入の主目的は、幸福感やポジティヴな情動の促進にある。
    • たしかに、WBの増強は身体的健康や生産性、有意義な関係構築、社会的機能などを改善する(Chida & Steptoe 2008)。
  • だが、ポジティヴなものの増加=よいこと、とは限らない
    • ポジティヴな機能の中でも自律などはノルアドレナリン増加に関連しており(Seeman et al. 2002)、従ってストレス反応の増加に結びついていると思われる。
    • ポジティヴ情動の過剰な増加は精神障害や機能障害と関連(Fredrickson and Losada 2005)
    • 情動的なWBや精神衛生を最適にするには、ポジティヴ感情とネガティヴ感情が3:1で経験される必要があるという主張もある(Frederickson and Losada 2005)。
  • ポジティヴ介入はPWBと苦痛のバランスを考慮すべき。
    • こうしたバランスと個別性を考慮した心理療法の一例が、「ウェルビーイング療法」(WBT; Fava, 1999; Ruini and Fava 2012)。

ウェルビーイング療法の構造

  • WBTはPWBをもとにした療法である、毎週ないし隔週で30~50分のセッションが通算8~12回おこなわれる。各セッションは次の3段階に別れる。
  • 序盤:WBに関連するエピソードとその文脈を特定する
    • 構造化された日記によって、被験者は出来事とそこに関連するWBの度合い(0〜100)を記録する。特に、単に快い経験を記録するだけでなく、日常的な活動の中にあるWBに関連するエピソードを見つけるよう促される。
      • 人は挑戦的かつ報酬的な経験に注意や資源を好んで割く。こうした「最適経験」(Csikszentmihalyi 1990)は、日常的な業務や休暇のなかにも存在しており(Delle, Fave and Massimini 2003)、患者はそうした経験をもたらした活動をリストアップすることを求められる。
  • 中盤:WBを遮ってしまう思考や信念を特定するよう被験者に求める
    • このフェーズにより、PWBを構成する6次元のうちどこが不合理ないし自動的思考によって影響を受けているかが明らかになる。
    • セラピストは、WBや最適経験を引き出すだろう活動を患者にすすめる。ポジティヴな瞬間が実際生じる時こそ自動的思考が生じる時である。
  • 終盤:思考のエラーや別の解釈について議論し、それらに対処する
    • この段階で患者は、WBに関連する時やそれを遮る思考を容易に特定できるようになっており、認知行動療法的な技法によってそうした思考に対処すると共に最適経験を追求する。最適経験を通じて、自己の成長と改善が生じる。

ウェルビーイング療法:臨床的考察

  • WBTはPWBの6次元の最適なバランスをとることを目的とする。
    • どのようなバランスが最適かは個別の事例に依存(Ruini et al. 2003)
    • ある次元の機能を低減するように促されるときもある。
  • 環境制御力
    • 低すぎ→行動の機会を逃す
    • 高すぎ→他人から助けを求められることが増えストレスが増大する
  • 人格的成長
    • 低すぎ→既に克服できた出来事と将来の出来事のあいだの類似性に気づかない。
    • 高すぎ→過去の出来事を重要視しない。
  • 人生の目的
    • 低すぎ→自分の機能の価値を切り下げてしまう。
    • 高すぎ→活動に固執しすぎ、ストレスの原因にもなる。
  • 自律性
    • 低すぎ→意見や選好を主張しなくなる
    • 高すぎ→人に助けを求められず、社会的・対人的な機能に支障。
  • 自己受容
    • 低すぎ→高すぎる期待や基準によってWBが中立化されてしまう。
    • 高すぎ→苦痛や現実との衝突が生じる。
  • 積極的な他者関係
    • 社会的機能の過剰がもたらすネガティヴな効果に関する研究はあまりない。
    • ただし臨床現場では、人を助けたり許せなかったことに罪悪感を感じる患者は多く、また向社会的すぎると自分のニーズやWBを犠牲にしがち。

WBT: 有効性の研究

  • 情動障害の残遺期
    • 薬理学的方法で治療に成功した情動障害の患者に、WBTか認知行動療法を割り当て、残遺症状の程度を測定。どちらの群でも残遺症状の低減が見られたが、WBTの方がより低減。またWBTはPWBの増加と関連(Fava et al., 1998a)。
  • 反復性鬱病
    • WBTを一部に含む認知行動療法のパッケージが反復性鬱病に効果的。この療法をうけた群は、通常の臨床的処置をうけた群と比べ、残遺症状が有意に低下する(Fava et al., 1998b)、また二年後の再発率もより低い(Fava et al. 2004)。
  • 薬物療法中の臨床的効果の損失
    • 抗鬱薬による治療中に鬱の症状が再帰してしまうという現象がある。こうした現象を示す患者に、抗鬱薬の増量かCBT+WBTのいずれかを割り当てると、後者の方が一年以内の再発率が低い(Fava et al. 2002)。
  • 全般性不安障害の治療
    • 全般性不安障害の患者にCBTかCBT+WBTのいずれかを割り当てると、後者の方が症状の低減・PWBの改善の両者でより効果的だった(Fava et al. 2005)。
  • PTSD
    • 十分統制された研究は未だ存在しないが、WBTによってPTSDが改善したという事例報告がある(Belaise et al. 2005)。
  • 気分循環性障害
    • 気分循環性障害の患者にCBT+WBTか通常の臨床的処置を割り当て、治療後・一年後・二年後に患者を評定。全ての指標でCBT+WBTの方が大きく改善。

心理療法によるウェルビーイングの変化は持続的か?

  • WBTの効果は2つの現象に基づいていると考えられる。
    • 1)PWBの増加は、ストレスに対する保護の役割を果たす
    • 2)ポジティヴ感情とネガティヴ感情は打ち消し合う(Rafanelli et al. 2000)
      • 病の急性期には症状の改善こそがPSBの改善をもたらすだろうが、残遺期にはPWBを改善することが症状の改善に繋がるのだろう。
  • 上で紹介された臨床研究では、追跡調査時にPWBは測定されていない。だが臨床的変化が安定していることを考えると、PWBも持続していると考えられる。
  • WBTは海馬や、恐怖・ストレス経験の記憶の場である扁桃体基底外側部に働きかけ、苦痛やトラウマ的な記憶を弱めているのではと考えられている(Singer et al. 2005)。
    • だとすると、WBTが働きかけている生理的実体は、症状の改善を志向するような認知行動戦略のそれとは異なっているのかもしれない。