https://archive.org/details/anoutlinepsycho06titcgoog
- Tichener, Eduard Brandford. (1896). An Outline of Psychology, 1st ed.. New York, NY: Macmillan.
以下に訳出したのはE. B. ティチナーが1896年に書いた心理学の入門書から「痛み」の節です。ここでティチナーは、痛みはあらゆる感覚神経から生じうるものだと考え、従って痛みこそがあらゆる感覚に共通するもの、すなわち「共通感覚」なのだと主張しています。
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§21 痛み
何らかの感覚器官が過剰に刺激されたり、あるいは感覚神経が直接損傷したりすると、痛みという共通の感覚が生じる。具体的な痛み(たとえば、強すぎる光を浴びたときや指を切ったときに生じる)には、3つの独立した要因が含まれる。まず、個別感官の感覚*1ないし臓器感覚*2、痛みという共通感覚、そして深刻な不快である(§31)。深刻な痛みの場合、第2第3の要因が第1の要因を遥かに上回る。とはいえそうした場合ですら、私たちはつねに、切られたのは指であるとか、痛むのは歯であるとか、お腹の痛みをもたらしているのは消化管だとかいったことがわかる。この局在性にかんする知識をもたらしているのは、個別感官の感覚や個別の臓器感覚のもつ質なのである。
これまで共通感覚と呼ばれてきたものには、上で私が臓器感覚および共通感覚と呼んだ感覚ないし感覚複合の全てを含み、また個別感官の感覚のうちいくつかのもの(体温など)を含んでいる。これらの感覚は、どの感覚神経群の刺激によっても(あるいは少なくとも、一つ以上の感覚神経群の刺激によって)生じると考えられていた。つまりそうした感覚は、いくつかの異なった感覚部門に「共通」のものだとされていたのだ。だが我々の議論が示すように、厳密に言えば、共通感覚は一つしかない。痛みである。従って、めまいや緊張感などは、臓器感覚と呼ぶのが最善なのだ。
圧迫感は共通感覚にかなり近い。というのもこれは皮膚、粘膜、関節、横紋筋における神経末端の刺激によって生じるからだ。圧迫感と痛みは有機体の最も原初的な感覚、精神の進化において真っ先に現れたものだと考えられるかもしれない。
ここで注意せよ。共通感覚の存在は、私たちが定めた感覚の一般的定義を脅かすものではない。痛みは、どの身体的な感覚器官の過剰な刺激にも結びついている。だが個別の痛みは、つねに何らかの特定の器官に座を占めているのである。
本書で言及した以外にも、臓器感覚や共通感覚の複合体には様々な名前があてられている。だがそうしたものは、どれも個別の感覚質に他ならない。疲れ、眠気、元気さ、不愉快などは(これらが感覚から構成されている限り(§32))、既に見たような諸要素に分解可能である。
方法:痛みがあるというのは内観には極めて不都合なことであるため、異なる感覚部門において質的に類似した痛みが生じているというのを自分自身で確信するのは難しい。だが、次のような方法なら上手くいくだろう。あまり尖っていない棒であなたの胸の部分を押していき、圧迫感が痛みに変わったならば、アシスタントに合図を送って、スライドホイッスルで耳が痛くなるほど高い音を出してもらう。これを何試行かすると、2つの痛みが同じ質を持つことを確信するのに十分な内観ができるようになるだろう。