http://high-school.c.u-tokyo.ac.jp/lecture_time/2014s/2014s_13.html
- 矢後勝也 (2014) 「幻の蝶ブータンシボリアゲハの自然史」 『高校生のための金曜特別講座』(東京大学総合文化研究科・教養学部)
東京大学駒場キャンパスで開催されている『高校生のための金曜特別講座』に行ってきました。今回の講師は矢後勝也さん。2011年、幻の蝶とされていたブータンシボリアゲハを約80年ぶりに再発見した調査隊の副隊長を務められた方です。この経緯は、NHKスペシャル「秘境ブータン 幻のチョウを追う」でご覧になられた方も多いのではないでしょうか?
今回の講座はそのブータン調査の様子と成果を語るもの。首都ティンプーから調査地トブランまで車で5日+徒歩(+馬)で2日の行程がいくつもの映像で紹介されます。山々には神が住まうためトンネルが掘れずに道のりは危険なものとなり、道中はその神をまつる諸寺院に詣でつつ進んだという話は印象的です。トブラン到着後はいよいよブータンシボリアゲハ捕獲。この美しい幻の蝶とその捕獲の様子も多くの映像で紹介されました。なかでも隊長が捕えた産卵の動画は大変貴重なものだそうです。
産卵の際、卵は「月見団子のように」盛って産みつけられます。これは、寄生蜂に対し外側を捨てて内側を守る方略のようです。またトブランは北にヒマラヤ南にも高い山を抱え、南からの渇いた空気とヒマラヤからの湿った空気がぶつかる特殊な気候にあります(亜高山帯と熱帯の蝶が同居しています)。この気候が、ブータンシボリアゲハの分化に寄与したのではという示唆がなされました。さらに、ブータンシボリアゲハのエサとなる植物はもともと原生林が崩壊したところに生えるものですが、里山化によってこの植物が生え続け、ブータンシボリアゲハも生き続けることができたようです。なおその後の分子系統解析は、シボリアゲハ属は単系統群にまとまっていないのではないかという疑念を払拭する等の成果を上げています。
ブータンシボリアゲハはワシントン条約で保護されているため、捕獲された5匹は一旦はブータンに残されましたが、同年にブータン国王が国賓として来日した際、2匹のオスの標本が日本に贈られました。国王の側近によれば、これは両国の友好の証であるとともに、東日本大震災の復興を願うものでもあったようです。
講演後の質疑応答では、どうやらこの講座は遠隔中継されていたらしく、水戸や鹿児島の高校生からも質問が寄せられました(ハイテクや……)。ラ・サール高校から飛び出した新種発見や再発見の社会的意義の問いには、環境保護のためのリソースの配分や外来種の脅威の査定に大きく寄与することが語られていました。
さて、講演の後は、特別展「日本の蝶」が開催中の駒場博物館に移動し、国王から贈られたブータンシボリアゲハの標本の一つを見る時間が設けられました。普段は東京大学総合研究博物館の保管庫に入っているというこの標本、今日一日限りの展示でしたが写真撮影が許可されていました。個人的にネットにアップロードする許可もいただけたので以下に掲載します。額の上部にはブータン王室の紋章が入っています。同じく紋章の入った美しいシルクの外箱にも注目です。
なおこの蝶は矢後さん自身が捕まえたもので、大きさは5匹の中でも一番小さいもの。他の蝶はもうふたまわりくらい大きいとのことでした。調査隊はブータンの人たちに標本の作り方などをおしえる活動も行っており、この標本を作成したのはブータンの方だそうです。