えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

幼児の視線追従 千住 (2012)

社会脳の発達

社会脳の発達

  • 千住淳 (2010) 『社会脳の発達』 (東京大学出版会)

第II部 赤ちゃんの脳、社会に挑む
第3章 他者の心を理解する
第4章 他者の動きを理解する 
第5章 視線を理解するI
第6章 視線を理解するII ←いまここ

  視線追従は意識的に制御することが難しい反射的・自動的な反応で、視線方向に現れる標的への反応時間は(それが手掛かりになっていなくても)短くなります。この効果は生後数時間から数日で既に生じます(Farroni et al, 2004)。こうした発達初期の視線追従は、社会的学習のために役立つと考えられています。チブラは、視線追従を使った学習は、教育が始まる事を示す「顕示シグナル」(アイコンタクトや呼びかけ)と、教示対象を特定する「参照シグナル」からなる「自然な教授法 natural pedagogy」の一部だと論じました(Csibra & Gergely 2004)。実際著者らは、アイコンタクトや母親語が先行しないと、視線追従が続かない事を示しています(Senju & johnson 2009)。また18カ月児に対し、「アイコンタクト→対象への視線移動→表情(しかめ顔/微笑み)→手伸ばし行動」を示すと、しかめ顔が向けられた対象への手伸ばし行動に対する注視時間が長くなります(好ましいものに手を伸ばすという予想の裏切り)。さらに、表情を示したのと別人が手を伸ばす場合、事前にアイコンタクトがあった場合のみ、注視時間が長くなります。これは、アイコンタクトによって、対象の価値は「本人の好み」ではなく「一般的な知識」として学習されたからだと考えられます(Egyed et al. 2007)。
 10か月児になると、眼をつぶって顔を向けただけの刺激には追従しなくなります。「相手の視線が指し示す方向」から、「相手が見ているもの」への注意へと移行するのです(Brooks & Meltzoff 2007)。また先述の「見える」目隠しを経験した18カ月児は、その目隠しをした実験者の視線を追わなくなります(Meltzoff & Brooks 2008)。
  なお、視線処理には側頭葉の上側頭溝が関わっています。その前部には異なる視線方向の処理を担う細胞群があり、後部には視線だけでなく人体の動きに特化した処理が行われます。成人では上側頭溝の各部位が眼や口や手に特異的な反応を見せ、生後四カ月児でも目と手は異なる部位で処理されているうようです(Lloyd-Fox et al, 2011)。