http://ci.nii.ac.jp/naid/40002071476
- 林真理 (1989). 「生命力と生命の学:ブルーメンバッハ、キールマイアー、ライル、トレヴィラヌス」, 『生物学史研究』, 51: 1−12.
ブルーメンバッハは、生命現象の中でも生成・栄養・再生の原因となる力として「形成衝動」という概念を提出した。ただし、形成衝動は生命現象に関連する力のうちの一つにすぎない。
キールマイヤーは、形成衝動に対応する「再生力」を含め、生物現象を支配する5種類の「有機的な力」があると考えた。彼はまた、この5つの力の相互関係についても論じている。すなわち、感受性は高等な種でおおきいのに対して被刺激性は低級な種でおおきいといったように、5つの力は種のあいだで平衡関係を保っており、このことが自然界の平衡を基礎付けている。さらにキールマイヤーは5つの力が統一される可能性についても言及している。
生命現象にかかわる力は単一のものであるという考えを明示的に示しているのがライル(Johann Christian Reil)である。ライルは、自然界に存在する力を五種類に分類する。すなわち物理的力、生命力、植物的力、動物的力、理性的力である。そして、生命力の法則を探究するのが生命についての学であるという構想が示された。
同様のアイデアはトレヴィラヌス(Gottfried Reinhold Treviranus)にも見られる。彼は「自然一般」と「有機的世界」を対比させ、自然を支配する二種類の根源力、物質の反発力と「生命力」を想定した。そして、前者が物理学を可能にするのに対して、後者によって可能になる学こそが「生物学」であると考えた。これは「生物学」[Biologie]という言葉の初期の使用例の一つである。
こうして、ゲッティンゲン大学に関連する学者たちのあいだで、生命現象の原因となる力という概念がとりあげられ、それは単一の「生命力」だとされるようになっていた。こうして生命現象は、「統一的概念による包囲」を被った。さらに同時にライルやトレヴィラヌスは、生命現象を精神的現象と明確に区別することをも主張しており、これにより生命現象は「客体化」を被った。こうして、生命にかんする一般的な学としての生物学が確立されていった。