えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

真なる信念を持つことはそんなに適応的なのか? Sage (2004)

http://download.springer.com/static/pdf/293/art%253A10.1023%252FB%253APHIL.0000014527.34545.c9.pdf?auth66=1403205899_653db9c8df6ff576b31d4d33ec81af79&ext=.pdf

  • Sage, J. (2004) Truth-Reliability and the Evolution of Human Cognitive Faculties, Philosophical Studies, 117:95-106

 認知能力の信頼性をそれが進化の産物であることに訴えて論証しようとする人々がいます(e.g. Quine, 1969; Fodor, 1981; Dennett, 1987; Feldman, 1988)。しかし、ある特性が「適応度に関して信頼可能(RF)」であることと「真理に関して信頼可能(RT)」であることは別の話です。
 そこで、「真なる信念は偽なる信念より個体の包括的適応度に寄与する」と論じていくことが重要になります。しかしこの主張を疑う道を筆者は4つ提示します。

  • 1:偽だけど適応的な個別の信念を挙げる (Stich, 1990, p. 58)。例:飛行機の出発時間に関して誤信念を持つことで、飛行機事故を逃れられる。

※ただしこれは十分な力を持ちません。〔というのは、元の主張は個別の信念を生成する能力に関する主張だからです〕

  • 2:偽だけど適応的な一連の信念を挙げる。例:宗教的信念体系など
  • 3:誤った信念を体系的に生成するが適応に関して信頼可能な認知能力を挙げる。例:ガルシア効果、危険回避型の信念生成、(もし色に関する信念は全て誤りだとすると)色知覚など
  • 4:真理-信頼可能な認知能力を持つことの生物学的コストを挙げる。
    • (1) 脳が酸素、カロリー、冷却を必要とする
    • (2) (少ないデータから)詳細な推論を計算するには時間と集中が必要になる
    • (3) 過去の情報にアクセスするために大きな記憶容量と想起径路が必要
    • (4) 関連する情報を同定するために複数レベルのサブルーチンが必要
    • (5) 欲求や目標を秩序付けるために大きな熟慮と反省が必要
    • (6) 「検出器」を利用するためには精度が必要

このように、元の主張を疑う理由はたくさんあり、進化が真理-信頼可能な認知能力を与えたという見解を信じるよい理由は手に入っていません。