えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

信念に注目したノーブ効果の統一的説明 Alfano, Beebe & Robinson [2012]

http://secure.pdcnet.org/monist/content/monist_2012_0095_0002_0264_0289
The Centrality of Belief and Reflection in Knobe-Effect Cases

アブスト

 実験哲学の近年の仕事は、良い副作用を引き起こした人よりも悪い副作用を引き起こした人に対して、人々は意図性、知識、その他の心理的性質を帰属させる傾向があると言うことを示してきた。我々は、この非対称性は全て、信念帰属に関する根底的な一つの非対称性から説明されるものだと論じる。というのは、行為が特定の副作用を引き起こすだろうという信念は、問題となっている心理的態度のすべてにとって必要な構成要素だからである。さらに我々は、信念帰属の非対称性は合理的なものであるとも議論する。この非対称性は、信念形成の非対称性を反映したものであり、この信念形成の非対称性は、ある特定の信念を形成するのにあたっても便利であるので、合理的だからだ。

1.序

 ノーブ効果の非対称性はいろいろな領域で見られる。欲求や知識帰属にも見られる。られる。

2 信念ヒューリスティック

 多くの場合成り立つ条件法として次を考える。
(Know → Believe)
行為者aがφすることがpを引き起こすと知っているのは、aがφすることがpを引き起こしに寄与するだろうと信じている場合に限る
(Intentionally → Beliexe
行為者aがφすることで意図的にpを引き起こすのは、aがφすることがpを引き起こしに寄与するだろうと信じている場合に限る
(Desire → Believe)
行為者aがφすることでpを引き起こそうと欲するのは、aがφすることがpを引き起こしに寄与するだろうと信じている場合に限る
(略

→信念が全ての事例を統一するファクターになる

【仮説】
登場人物は、一方の条件で他方の条件よりも起こりうる副作用により大きな注意を払いより深い反省を行う実践的理由がある。この大きな注意・深い反省が登場人物にその副作用に関する信念を抱かせやすくし、帰属者には登場人物にその信念を帰属させやすくする。この状況は、登場人物が顕著な規範を侵犯することを考える場合に起こる。

・様々な心的状態帰属の非対称性は、信念帰属の非対称性に由来する

【規範違反/信念帰属ヒューリスティック】
(NBA)「他の行為者aのφがpを引き起こすだろうし、pがaにとって顕著な規範を犯すならば、aにたいし、φがpをひきおこすだろうという信念を帰属させよ」

→(NBA)を用いるのは合理的:何故なら、人は次の規範違反/信念形成ヒューリスティックを使っているから、NBFは実際の信念形成をトラッキングしている。

【規範違反/信念形成ヒューリスティック】
(NBF)「私自身のφがpを引き起こすだろうし、pが私にとって顕著な規範を犯すならば、φがpをひきおこすだろうと信じよ」

→では(NBF)の使用はなぜ合理的なのか?
一般に真なる信念は持つ価値があるが、特定のタイプの信念はより持つ価値がある。「「規範を破っている」という真なる信念は「規範にかなっている」という真なる信念よりも価値がある」という事実が、NBFを尤もらしくする

【期待されるペイオフ】
         規範を破る 規範を守る
正しい信念を持つ  良い     良い
何の信念もない   悪い     良い
誤った信念を持つ  悪い     悪い

→ 合理的な人間なら(NBF)に従って行為すると期待でき、合理的な帰属者なら(NBA)に従って心理的態度の帰属を行うと期待できる。
・従ってノーブがよく行う主張「HELPとHARMは道徳的要素以外すべての点で性格に同一」は受け入れがたい。普通の人々は登場人物の信念が異なると合理的に考えているはずである。

3 信念帰属・形成ヒューリスティックの説明力

様々な事例に対する説明力を持つ

4 信念のヒューリスティック VS 競合する他の説明

他の各説の欠点
概念能力:多くの実験が間違いを示しノーブも撤回している。また、ノーブらは副作用効果を「予見されたが欲求されない」ものと見ているが、ESEE実験はこれが誤りであることを示している。
ゆがめ説:普遍性に欠ける
会話の含意:有責性とのつながりはない(ナチ事例)
意味の多様性:知識や欲求が二つの条件で等しく帰属されることを前提にしているがこれは否定されている・普遍性に欠ける
トレードオフ:普遍性に欠ける
反事実的条件法:意図的な規範違反には必要なのは、規範を違反しているという知識のみ。一方、意図的な規範順守に必要なのは遵守の知識の他に規範によって反実仮想的に導かれていることが必要。Help条件はこの反実仮想的ガイドを欠いた偶然による規範順守にすぎず、これは意図的ではない。;知識が二つの条件で等しく帰属されることを前提としている(略

5 新たな実験的証拠

信念ヒューリスティック説から予言される二つの結果を示す実験
(1)規範を逸脱している方が、「憶えている」と判断されやすい
(2)全く道徳とは関係ない規範によっても非対称性が発生

6 単一化へ向けて

 信念の非対称性の存在には〔合理性の観点から〕良い理由がある。規範の侵犯は典型的にはコストが伴い、遵守には伴わない。従って、規範を破る場合に何が起こるかに関しては精確な信念を持つべきであるが、遵守の場合その必要はない。この信念の非対称性が、これまで観察されてきたすべての非対称性の根底にある原因である。何故なら、意図、欲求、知識、憶えていること、は全て信念を前提しているからである。
 素朴心理学の機能は行為の予測、説明、操作であるという知見が広く受け入れられている。信念ヒューリスティック説に基づけばノーブ効果はまさにこの役に立っており、ノーブが言うように、心的状態帰属自体が価値的な側面を帯びている訳ではない。