えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

意図的に規範を破ること/守ること Holton[2010]

http://analysis.oxfordjournals.org/content/70/3/417.short
Norms and The Knobe Effect

1. ノーブ効果

holtonの目的

ノーブ効果は様々な場面で確認されてい。この論文は多様なノーブ効果を単一の説明方法で説明するとともに、被験者が非対称の判断を行うことは正しいのだと正当化する。

2つの主張
  • (1)規範に関係する根本的な非対称性が存在する:意図的に規範を破るためには、人はその規範を知っていて破るだけでよい。一方で、意図的に規範を守るためには、人はその規範によって反事実的に導かれてguidedいなくてはならない。
  • (2)ある行為に関係する態度帰属を行う場合に、我々は多くの要因に影響を受けてる。ある行為が意図的と判断されるか否かを決定する一つの中心的な要因は、行為者がその行為を行う中で意図的に規範を破っているか、それとも意図的に規範を守っているかという点である。

 人間の生活の中で規範が中心的な役割を持っており、我々は規範の存在やそれが破られているか否かにセンシティヴだということが、この主張のもっとらしさの根拠。
・2,3歳で規範に関する様々な能力を身につけることができる(Rakoczy et al. 2008; Tomasello 2009: 34?39)
・危害のない行動も規範を破っていれば即座の怒り反応を受ける

2.規範違反と規範順守の非対称性〔主張1の敷衍〕

 「或る結果をもたらすこと」と「その結果を意図的にもたらすこと」との間には普通ギャップがある。
・或る場合には、このギャップを埋めるのは意図
 意図的に行為をボールをキャッチし損ねる場合、人は行為のガイドとして働く「ボールをキャッチし損ねよう」という計画を持っており、それに従って、ボールがキャッチされないという事態が確かに起こるよう自分のふるまいを規制する。意図的な規範の遵守もこれと同じである。
・意図的な規範の違反の場合は事情は異なり、ギャップを埋めるのは知識。
 そうと知りながら規範を破っていれば、〔それだけで〕人は意図的に規範を破っているに値する。その際さらに、規範が破られるという事態が確かに起こるように自分のふるまいを変化させる準備ができていなくてはならないわけではない(そういう場合もあるが(Evil be thou my good))。
 →行為者は規範を軽視・無視しようという意図を持っており、この態度が実際に規範違反を導いた場合に意図的な規範違反ということになる。

3.規範違反が意図性に与える影響〔主張2の敷衍〕

 他人の態度を評価する際に、我々は多くの要因の影響を受ける。こうした諸要因は、単にある態度の証拠となるだけでなく、むしろ態度を構成している。
 (2)の主張も同じこと:或る結果を意図的だとする判断は、それが(実際のであれ潜在的であれ)意図、計画、決定の観念を中心としてクラスターをなす様々な要因を持つものとして理解すると言うことであり、この要因の中にはその結果を支配する様々な規範に対する行為者の態度が含まれる。
 ただし、特定の効果をもたらす際の意図的な規範違反が、その効果が意図的であることの必要条件や十分条件だと言いたいわけではない。むしろ、意図的行為はロッシュの言うプロトタイプ、あるいはクラスター概念であり、規範違反はその寄与的な要因である。

4.知見の説明

(i)ノーブのもともとの事例

環境破壊条件:社長は環境破壊を引き起こすと知っている。だから、知っていて、従って意図的に、規範に違反することになる。これが意図的な環境破壊の寄与的ファクターなので、被験者は社長が意図的に環境を破壊したと判断する。
環境保全条件:社長は環境保全を引き起こすと知っているが、それは意図的に規範を守っている訳ではない。何故なら、その規範に〔反実仮想的に〕導かれている訳ではまったくないからである。なので、意図的に環境を益したと言う根拠は何もなく、被験者もそう判断しない。

(ii)規範の違反が良いことの場合

 ナチに加担する法律を破る/守る事例でもノーブ効果は見られるので、規範の善し悪しは規範違反の判断とは独立であることが分かる。また同じ構造を持つ実験として、ゲイのパートナーの間でキスするように/異なった人種間でセックスするよう促がす行為者〔映画監督〕は、異性のパートナーの間でキスするように/同じ人種間でセックスするよう促がす行為者よりも、意図的にそのような行為を行ったと被験者によって判断されやすい(Knobe 2007)。この結果をノーブらは、これらの活動に対する被験者の無意識的な不賛成によるものだと考えた。しかし、被験者の賛意不賛意によらず、これらの活動に反対する規範を意識したことによっても説明ができる。

(iii)予期せぬ成功

 一般に、本人が成功しそうもないと考えている行為を意図的だと言うのはためらわれるが、ここにもノーブ効果が生じる。Pettit and Knobe [2009]は、暗号によって操作される装置を起動させようとしている行為者の事例のペアを被験者に与えた。一方では、この装置は爆弾を爆破させるもので、行為者は罪のない旅行者を殺そうとしている。もう一方ではこの装置は爆弾を解除するもので、行為者は罪のない旅行者を助けようとしている。どちらも、行為者はあてずっぽうで暗号を入力しそして当てる。被験者は後者よりも前者の方が意図的に爆弾を爆破した(/解除した)と言う傾向が見出された。
 ここでは、規範に違反しようとすることは、成功するという期待がなかったとしても、それ自体でその規範の違反である事実が、意図的に爆破させたという判断に根拠を与える。

(iv)その他の命題的態度

 desiring, decideing, advocating, favouringなどの動詞に対しても2ステップの説明が拡張される。確認すると2ステップと言うのは
(i)規範に対する態度にかんして根本的な非対称性がある。
(ii)この非対称性が、規範に明示的似参照していない帰属に引き継がれる
そこで、
(1)意図的に規範を破ることに必要なものは意図的に規範を守ることに必要なものよりも少ない。これと同じことが、規範を破る/守ると欲する/決める/……などの事にも言える。
 環境を破壊した社長は意図的に規範を破ったが、規範を破ろうと決定/賛同/支持してもいる。一方で環境を保全した社長は、規範を守ろうという決定/賛同/支持値するものは何もしていない。
(2)行為者が意図的に規範を破ったという判断は、行為者が意図的に結果を引き起こしたという判断に対して寄与する。これと同じことが、他の態度に関する判断にも言える。

欲求の場合

 欲求の事例はより複雑である。環境を破壊した社長は、規範を破ろうという内在的欲求を持っていたわけではない。しかし、利益を上げようと言う欲求を達成するためにこの規範を破ろうと言う何らかの道具的欲求はもっており、これが環境を害しようと言う欲求の帰属にたいする寄与的な要因になっている。

in order toの場合

 ノーブは、環境破壊の条件の下では、行為者が利益を上げるためにin order to環境を破壊したと判断されやすいことを発見している。破壊条件では、社長は利益を上げるために規範を意図的に破っているが、保全条件では利益を上げるために規範を意図的に守ると言うことはしていない。この事実が、「のために」判断の根拠になっている。

5.結論

 冒頭で掲げた説明と正当化という2つの目的のうち、ここまでは説明を主に扱った。しかし同時に正当化もなされている。意図的な違反と意図的な遵守との間の非対称性がリアルなもので、それぞれの概念のまさしく本性に根差しているのだから、結果が意図的か否かの評価に、規範が意図的に破られているか否かの判断が組み込まれているのは完全に有意義なことである。この説明が正しければノーブ効果は奇妙なものではなく、規範が我々の絶えざる関心事であるということを示している。

メモ:意図に関して厚い動詞

注1
 遂行と意図的遂行の間にどんなギャップも存在していないような他の動詞もあると言う点に注意せよ。盗むことと意図的に盗むこと、あるいは、嘘をつくことと意図的に嘘をつくこととの間にはどんな違いも存在しない。しかし、こうした場合がなぜ生じるかと言えば、この動詞が、いわば、意図に関して厚いintentionally thickからである。つまり、盗むこと、嘘をつくことという概念は、既にその行為が意図的に行われたというアイデアをビルトインしているのである。規範に「従う」というアイデアも、このようなものである――つまり、規範に従っているということになるのは、意図的にそれに従っている場合に限る可能性があるので、私はこの議論の中で遵守という語を用いることにした。興味深いことに、>>規範を破ることを積極的に目的とする<<という悪魔的な概念に対しては、対応する意図に関して厚い動詞が存在しないように私には思われる。そしてこのことが、我々の道徳的関心の対象になるのは>>知りながらの違反<<というより薄い概念であるということにたいしてさらなる証拠を与えている。  p. 420f