えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

リプライ:なぜ自由意志信念は一枚岩ではないのか Mele (2014)

Moral Psychology: Free Will and Moral Responsibility (A Bradford Book)

Moral Psychology: Free Will and Moral Responsibility (A Bradford Book)

  • Sinnott-Armstrong, W. ed. (2014) Moral Psychology

ナーデルホッファーへの返答

  • 以下は別問題という正しい指摘
    • (1)「魂を信じる人の割合」問題
    • (2)「自由意志が魂に依存すると考える人の割合」問題
  • メレが取り組んだのは(2)だったが、皆が魂信念を持つ事は前提にしておりこれは明示的に尋ねなかった。〔とはいえ、〕
    • 【A:シナリオ形式】 魂の非存在を強調したシナリオでも3/4が自由意志あると回答 ……「依存なし信念」と両立
    • 【B:自由記述】自由意志をもつとはどういう事かを自由記述させても実体二元論は全くあらわれず (Monroe & Malle, 2010)
    • 【C:直接的言及】しかし、Nの質問紙の「もし、人間に物理的でない(非物質的な)魂など無いと明らかになった場合、人間は自由意志を欠いているという事になる」は、各回答が1/3づつだった。
      • この差の一部は被験者プールの差によるはず。さらに……?
  • Nの「直観」と「理論」区別……AとCの差を説明する一つの方法
    • メレにも「概念」と「理論」という類似の区別 (Mele, 2001)
      • 概念……整理メカニズム (犬概念は事物を犬と非犬に分ける)
      • 人々の概念に関する証拠を得る良い方法は、シナリオを提示してそれをどう整理するかを見ること
      • 一方、理論の証拠を得る方法は、理論的な質問を投げかけること:自由記述でも、より特定的な方法でもよい
  • ではBとCの差は?
    • Bの場合、始めに心に浮かんだものを回答したのではないか。
    • 自由意志について考えるとき魂の事をパッと思いつかなくとも、Cのように魂を前面に出して回答を求められると、少なくとも1/3は自由意志が魂を必要とするという考えがは尤もだと思った。
  • いずれにせよNの調査結果は、「自由意志に魂が要る」という科学者の見解は少数派〔=Nによればよくて1/3〕というメレの主張を支持する。歓迎。

ヴァルガスへの返答

  • 科学者は自由意志に「源泉性」を求めているという主張へのコメント
    • 「自由意志が源泉性を必要とする」=「自由な行為は、その行為の決定に先立つような因果的先行者をもたない」 V (2009)
      • (1)源泉性は自由意志に必要ないと私は考える(詳しくはMele, 1995, 2006 みてね)。
      • (2)自由意志が源泉性に依存しているかどうかも調査しておけばよかった。
        • 「ある人物のあらゆる決定は、両親の人生において起こった出来事の影響をある程度こうむっている」と科学が明らかにしたというシナリオを用意しても、大多数は自由意志あると言うんじゃないか? ただ調べないと分からない。
  • しかし、「源泉性」には自由意志の要件でありそうな別の意味があり、しかもその意味で解された源泉の存在は科学によって否定される、と考える人がいるかもしれない(see Mele, 2009)。
    • この手の提案は歓迎。しかしそれには3点を尋ねることになるだろう。
      • (1)その要請は自由意志への要請としてそれ自身として尤もらしいか?
      • (2)その要請は多くの普通の人に受け入れられているか?
      • (3)その要請が絶対に満たされないと信じるよい根拠を科学的実験は与えているか?
  • 自由意志の実質的説明に踏み込んでいないという論点
    • 踏み込まなくても、「全ての近位意図は無意識的」「全ての決定は無意識的」「意識的決定は対応する行動の原因ではあり得ない」などの主張の誤りは示せるというだけ。
    • Vも認めるように、Mele (2006) とかでは自由意志とは何かについて色々議論している。
  • Vは源泉性に注目しているが、それとの関連で還元主義にも言及していた。
    • 「決定が低次の神経機能の観点から完全に解明される[explicable]なら……」
      • 源泉性は必要ないと思う人でも、この前提は自由意志を脅かすと考える人がいるかも?
  • しかし、ある決定を「説明」explainするとはどういうことなのか?
    • 何故その行為が行われたかを説明する事?
      • 例えば、離婚すると決めたのは何故かの説明が数ヶ月前の意識的推論にまで遡れるとして、その推論と低次の神経機能の関係は?
        • これは形而上学の問題。科学では決着つかない。
    • 「決定が低次の神経機能の観点から完全に解明」=「意識的過程とそのNCは決定に何の影響も与えない」?
      • これが正しいなら自由意志はないが、この挑戦は論駁済 (2009)
  • V「科学者が操作する自由意志概念に関する実質的議論なしには、懐疑論を思いとどまらせる事は出来ない」
    • これはどういう科学者が相手による。
      • 〔標準的な自由意志の構想構想を持つが、〕リベットの研究によって「全ての決定は無意識的」だと納得してしまった科学者に対しては、その主張は支持されてないとはっきり示す
      • 標準的じゃない自由意志の構想をもっている科学者には、それがいかに標準的でないかを示す。
  • さっきホッピーを飲みたくなったが、これはヴァルガスのコメントを読んだのが「先行原因」だろう。しかしホッピーについてさらに考えると、ずいぶん前からこのリプライを書き終わったらホッピーを飲もうと決めていたのだという考えが浮かんできた。私が決めたというこの考えは誤っているかもしれないが、この後飲むホッピーがおいしいということに関しては確信がある。

まんがでわかるメアリー・アニング 富士山・矢島 (2014)

http://www.ienohikari.net/press/chagurin/

  • 富士山みえる・矢島道子 (2014) 「化石発掘で自然科学の発展に力をつくした メアリー・アニング (1799~1847)」 『ちゃぐりん』 2014年9月号 (家の光協会)

  JAグループ家の光協会がこどもむけにはっこうしている『ちゃぐりん』の今月ごうに、メアリー・アニングの伝記まんががのっているので読みました。
  びんぼうや女性さべつ、かいきゅうさべつに苦しみながらも重要な化石をたくさんはっくつしたメアリーのすがたが生き生きとえがかれていました。また、当時のイギリスのちしつ学の歴史もかんたんにわかってしまいます。全小学生ひっけいです!!!1111111
  あとデ・ラ・ビーチがイケメンだった。

■あわせてよみたい

メアリー・アニングの冒険 恐竜学をひらいた女化石屋 (朝日選書)

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コメント:素朴な思考と科学理論に求められる整合性の違いにより、科学は自由意志の脅威となる Vargas (2014)

Moral Psychology: Free Will and Moral Responsibility (A Bradford Book)

Moral Psychology: Free Will and Moral Responsibility (A Bradford Book)

  • Sinnott-Armstrong, W. ed. (2014) Moral Psychology

同意点

  • ほとんど全てに同意
    • だが「真の脅威を見過ごしている」という批判に答えているか?

不同意点?

  • Vargas (2009) がメレに対置させた立場をメレは実体二元論だと解釈した。
    • しかし強調したかったのは別の点だった
      • 「自由意志の適当な構想にしたがえば、われわれは自分の行う事の究極な源泉であるという事になっていなくてはならない」
  • このアイデアを現金化する方法は色々あり、実体二元論はそのなかの(望み薄な)一つにすぎない。
  • なぜ科学がこの「源泉性」を脅かすと思われるのか? 
    • 人間は物質で構成されていると科学は示す。すると、人間のもてる物質的な力は、我々を構成する物質によって与えられていることになる。しかしその物質は因果連鎖の単なる一部でしかないので、我々を特別なもの、自分の行うことの究極的な源泉にしてくれるものは何も無い。
      • 科学的懐疑論という「懸念の核心部分を生んでいるのは、〔科学の〕広範に還元主義的な要素である」V (2009)
  • ここで非還元的構成要素(例えば実体二元論)や創発的力に訴えることは出来ない。決定が低次の神経機能の観点から完全に解明されるなら、「源泉性の要請」を満たすような実体や因果的性質などの存在は否定される。
  • 多くの科学者は「源泉性の要請」を必要とする自由意志の構想を持ち、懐疑論もこの観点から理解するのが適当ではないか。〔科学者が〕実体二元論〔を採るとして、それ〕は、より基本的な要請の表面への現れ=症状に過ぎない。
    • この要請を診断し対処することが、実体二元論だけに注目するメレの議論には抜けている。
  • ただこれは大きな反論ではない。
    • この要請を排除、あるいは適切に現金化する様々な哲学的説明がある
    • メレも別のところではかなり紙片を費やして論じている (Mele 2006)
  • 不一致があるとすると……
    • Mele (2009) は自由意志に関する実質的な理論に踏み込まずとも、科学的議論に取り組む事が出来ると考えていた。
    • Vargas はやはり、科学者が操作する自由意志概念に関する実質的議論なしには、懐疑論を思いとどまらせる事は出来ないと思う。
  • ただ今回の論文とかは相手の〔科学者の〕暗黙の確信を明らかにしようとしているし、この点もメレは多分反対しないだろう

どうしようもない=治らない点

  • しかし自由意志に対する科学的脅威は根絶できないのではないか
  • 主張・受容・認可・推論・反論などの〔信念に関する〕心的活動は複雑な傾向性の束からなると分かったとする。
    • 「信念エコノミーの要素」たるこれらの傾向性は、人の信念エコノミーにどのようなコミットメントがあるかを推論したり帰属したりする際の基盤となる。
  • こうしたコミットメントは「まばら」であり。つまり我々はとくに新しい証拠もないのに、状況によって違う信念をもつ。
    • 例:普段は無神論者だけど、塹壕では神を信じる/普段は別にホッピー好きではないけど、クラフトビール信者と飲む時はホッピーを好む。
    • これは不整合かもだが、我々はふつう自分に対しても他人に対してもある程度の不整合性は許容している。整合性への圧力がどのくらいかかるかは、心理・社会的要因によって様々。
    • 我々の「信念」は様々な傾向性のごちゃ混ぜであり、これらの傾向性がどう発現するかは心のその他の側面とも絡み合っている。
  • 信念関連傾向性のなかには自由意志(決定論、二元論、還元主義)に関わるものもあるが、これも多分ごちゃ混ぜ的
    • 自由意志の問題をどう提示・フレーミングするかによって、信念エコノミーのことなる側面が活性化されるはず
      • それが二元論や物理主義や決定論へのコミットメントにどう反映するかは複雑。どの程度信じているかは他の要素に左右される。
    • 自由意志に関する「確信」を支えるのは、まばらで、うまく振る舞いに結びつかず、合理性も不十分で不整合な思考の網でしかない。
  • このことの2つの帰結
    • (1)〔決定論的〕シナリオで、自由意志や責任があると多くの人が考えるのは驚くべきことではない。
      • 比較的浅いコミットメントなら見つけられるかもだが、様々なシナリオに一貫した回答は出ないだろう。実験屋には常識である。
      • ふつうの人は実体二元論(行為者因果、強い他行為可能性……)が自由意志に必要だというコミットメントをそれなりに持つだろうが、それは(少なくとも調査の文脈で)その要素が他の要素を上回っていると言うだけの話。
    • (2)〔素朴な思考と科学理論では求められる整合性が違い、これが科学による脅威を生む〕
      • 理論とは信念エコノミーの特権的な固定化である。
        • よい哲学—科学理論は、曖昧さを排除し、〔理論とは一見〕異なる反応を説明し、実質的なコミットメントを明確化する。
        • また一貫性・整合性への圧力が極めて強い
      • 実験や理論が我々の概念の素朴な要素と衝突するとき、科学は我々の自己理解には問題がある〔=我々の自己理解がそう整合的ではない〕ことを思い出させている。
        • 〔現象を全て説明するのが理論なのであり、人々に圧力をかけてくる〕理論はまともな「理論」ではないと哲学者は言うかもしれない。
        • しかし、何かが乱れていると科学者が主張するのは多分正しい。自由意志に関する我々の思考のうち(明晰に把握されている部分ではないかもしれないが)とにかくどこかの部分は、実際に脅かされている。
      • 科学による脅威に対する哲学の診断は、ほとんど不治の病の診断なのかもしれない。