えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

チーム推論による共有意図分析 Pacherie (2010)

http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs13164-011-0052-5

  • Pacherie, É. (2010) "Framing Joint Action" Review of Philosophy and Psychology 2, 2, pp. 173-192

  囚人のジレンマなどに見られるように、恐らく合理的で多くの人が実生活で採用しているが、古典的なゲーム理論では説明がつかない戦略が存在します。ここからSugde (1993, 2003)やBacharach (2006)は、「個人の選択」に焦点を絞っている点に古典的ゲーム理論の欠点があると考えます。
  この洞察を明確化するのには次の2つが求められます。

  • (1)チーム推論の理論:人が自分を集団のメンバーと見なした時に、「我々は何をすべきか」という問いにこたえるために用いる推論を分析する
  • (2)チーム形成の理論:人が自分がどの集団にいるかをどう同定するのかを説明する

  ここでは(2)に注目します。バカラックは、自分を集団のメンバーとして考えることはフレーミング(状況をどのように概念化・記述するか)の問題だと考えます。バカラックによれば、「共通利害」と「強い相互依存」という二つの特徴が現前し、知覚されるのに十分顕著な場合、プレーヤーは「われわれ」フレーミングを行うことが出来ます。
(少なくとも二つの可能な結果があり、片方が量プレイヤーにとっての利害に良く貢献する場合、2人は「共通利害」を持つ
 また、共通利害となっている結果が2人の協力でのみ達成できる場合、ゲームは「相互依存的」であり、さらに両プレーヤーにより選好される他の選択肢がある場合は「強く相互依存的」である)


 このバカラックの枠組みの下で、「共有意図」を次のように特徴づけることが出来ます。

P1とP2がAする意図を共有している if

  • 【a. 集団的自己フレーミング】各々が、P1とP2からなるチームのメンバーとして自分を概念化している
  • 【b. チーム推論】各々が、Aがチームのメンバー全てにとって最善の選択であると推論している
  • 【c. 参加意図】これに従い、各々はAのうち自分の担当部分を行うことを意図している

この提案には、「コミュニケーションを必要としない」「チーム推論の合理性以上の強い規範性を必要としない」「複雑な認知能力を必要としない」などの美点があります

子供は2歳くらいでパートナー理解を持つ件 Warneken et al (2012)

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1467-7687.2011.01107.x/full

  • Warneken, F, Gräfenhain, M & Tomasello, M. (2012) "Collaborative partner or social tool? New evidence for young children’s understanding of joint intentions in collaborative activities" Developmental Science 15, 1, pp. 54–61

  子供が「相手と一緒に活動していること」を理解しているかどうかを実験的に明らかにすべく、「相手が共同活動を急に中断した時に再開を促すか」という指標が提案されてきました(18・24か月 Warneken, Chen and Tomasello 2006; 14ヶ月 Warneken & Tomasello, 2007)。しかしこれらの研究には2つの疑問点があります

  • (1)子供が、相手の共同しようという意図と、中断という行動上の結果のどちらに反応しているのか分からない
  • (2)子供は自分自身の個人的な目的達成のために相手に再参加を促しているのかもしれない。(単なる道具として見ている可能性)

  そこでワーネケンらは、2*2の実験デザインを提案します。まず中断と意図の関係について2条件を用意します

  • 【やる気なし条件】相手が続ける意図をなくしている条件
  • 【不可能条件】意図することが出来なくなっている条件

もし子供が中断という行動上の結果にのみ反応しているなら、両条件で反応は同じになるはずです。一方でそうでないなら、とくに【不可能条件】ではおそらくまだ共通目標を持っているだろう相手をサポートする行動が多い筈です。
  さらに課題を以下の2つに分けます

  • 【連関あり】子供が自分の行為をするためには相手の参加が必要
  • 【連関なし】参加者は一緒に行為する必要はない

もし子供が相手を道具としか見ていないなら、相手の参加が必要な【連関あり課題】の場合のみ、サポート行動が多い筈です。

  結果、(1)【やる気なし条件】より【不可能条件】のほうで再開を促す行動が多く見られました。次に(2)課題デザインを分析に入れると、どちらの課題でも同じくらい再開を促す行動が見られました。この結果は27カ月および21ヶ月の幼児で同じように出ています。幼児は相手の意図に反応し、かつ相手を協力者として見ているようです。