えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

本当にみんなそんなに経験機械に入りたくないのか? 調べてみた De Brigard (2010)

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09515080903532290

  • Felipe De Brigard (2010). If you like it, does it matter if it’s real? Philosophical Psychology, 23(1): 43–57.

 ノージックの経験機械の思考実験に対して、機械の完璧な挙動という想定は現実離れしすぎており想定困難だという指摘がある(Sumner 1996)。この問題のために、経験機械につながれたくないという反応が本当に現実性への選好を反映しているのか、疑問の余地が残ってしまう。現実性への選好のみに基づく判断を可能にするひとつの方法は、既にこの人生が経験機械によって生み出されていると想定し、現実に戻りたいかどうかを訊くことだろう。このとき、ひとは本当に現実に戻りたがるのだろうか。4つのシナリオを使用して実際に調査してみた。

  • 【ポジティヴ】現実の人生はいまの人生よりよい、という情報を与える
    • 戻りたい50% - 今のままでいい50%
  • 【ネガティヴ】現実の人生はいまの人生よりわるい、という情報を与える
    • 戻りたい13% - 今のままでいい87%
  • 【中立1】現実の人生については何も言わない。
    • 戻りたい54% - 今のままでいい46%
  • 【中立2】現実の人生はいまの人生とは異なる、という情報を与える。どう異なるかは言わない。
    • 戻りたい41% - 今のままでいい59%

このように、経験機械につながれたままでいいという人が相当数いる。ここから、ノージックが想定していたほどには、人は現実性への選好を強く持っていないことがわかる。やはり経験も重要なようだ。
 しかしさらに、今のままでいいという選択は、現状維持バイアスによっても説明できる。人によって、現実に戻ることがどの程度リスクだと知覚されるかが異なるために、回答にばらつきが生じるのだろう。
 現状維持バイアスによる説明は、ノージックのオリジナルの事例にも当てはまる。経験機械に繋がれたくないという反応は、現実性への選好を反映しているのではなく、現状維持傾向の産物なのかもしれない。